Parisa Hafezi Angus McDowall

[ドバイ 21日 ロイター] - イラン指導部は、首都テヘラン市内での大型ポスター掲示や政府主導のイベントなどを通じて、国家の団結と世界的超大国である米国に対する「勝利」を誇示するための大々的な政治宣伝を展開している。

掲げられているのは革命防衛隊や事実上封鎖しているホルムズ海峡の画像だ。軍事色を取り入れた集団結婚式、モスクでの一般市民向け軍事訓練なども実施され、断固たる抵抗の意思が演出された。

直近の政治宣伝の特徴は、かつての革命的・宗教的なメッセージとは異なり、強硬派の支持層を超えたナショナリズムのテーマを強調している点にある。

非政府組織、国際危機グループ(ICG)のイラン・プロジェクト担当ディセクター、アリ・バエズ氏は「イスラム共和国の古いイデオロギーはもはや社会の中で大きな支持を得られなくなっていた。そのため大衆を動員できるイランのアイデンティティーの他の要素を引き出す必要があった」と語る。

ただバエズ氏や他の専門家は、現在の環境に深く幻滅しているイラン国民の間でそれがどの程度の成功を収めるかは議論の余地がある、とみている。

確かにイランは米国やイスラエルの空爆に耐え抜き、世界の石油供給の重要ルートであるホルムズ海峡を事実上封鎖することでトランプ米大統領を交渉の場に引き戻すことに成功したが、国内では悲惨な事態に直面している。

経済は戦争前から既に絶望的な状況にあり、崩壊の危機に瀕している。また当局による国内の締め付け強化は、政府が数カ月前に起きた騒乱の再発を恐れている表れだ。

こうした中で指導部は依然として国家の抵抗や西洋の悪事という確立されたイランの政治宣伝のモチーフを利用しているが、一部の古い革命的なイメージは控えめになった。

例えば数十年にわたって主流だったイスラム教シーア派の殉教の図像は、かつてイスラム共和国で君主制の過去を想起させるとして軽視されていたペルシャの民族的・歴史的象徴に一部取って代わられている。

一方、当局が頻繁に開催する集会の国営テレビ報道では、頭にスカーフを着用していない女性へのインタビューが特集されている。これはイランのメディアでは長い間、放送不可能だった。

ただ英スコットランドのセントアンドリュース大学のアリ・アンサリ教授(現代史)は「これは、イランでは全てが正常であり、われわれは団結しており、自国民を虐殺したりはしないということを示そうとする試みだ。中間層の迷っている人々にはある程度効果があるだろうが、ほとんどのイラン人はそれを本当には信じていない」と分析する。

<ホルムズ海峡>

ホルムズ海峡封鎖は、国内向けのメッセージ発信においても中心的な役割を果たしてきた。

あるポスターには、米軍の艦船や軍用機を捕らえた漁網を持つ革命防衛隊員が描かれ、別のポスターでは、海峡の独特な形状をした布がトランプ氏の顔にホッチキスで留められている。

これらのイメージは、頭蓋骨の顔をした自由の女神像を描いた有名な壁画を含め、イランの英雄的行為を称賛し、米国を非難するという長い伝統に合致する。

しかし過去とは異なり、テヘランにある別の巨大なポスターには、1世紀前にイランの湾岸地帯を占領していたイギリスに対するゲリラ指導者であったライス・アリ・デルバリが、革命防衛隊の司令官の隣に立ち、厳しい表情で両手を上げて海峡を封鎖する様子が描かれている。

元政府職員の1人は「国家の英雄を描いたこれらの横断幕は、戦時のためのものだ。その後、彼ら(政府)は再び私たちに牙を剥き、弾圧が始まるだろう」と語った。

イランにおいて政治権力の中心は戦争中に聖職者から革命防衛隊の司令官へと急激に移り変わった。これは長年続いていた緩やかな変化が決定的になった、というのがイランの政治関係者の見方だ。

バエズ氏は「政権が発信しているナラティブ(物語)の方向性は、実際には政権が遂げている変容を示している。それは神権政治体制から軍事体制へと移行しつつある」と指摘した。

敬礼するサッカーイラン代表チームの画像や、巨大なイラン国旗を掲げた新最高指導者モジタバ・ハメネイ氏の画像が、愛国的なテーマを象徴している。

<政治宣伝への懐疑>

バエズ氏は、インフラへの空爆やトランプ氏による「文明の抹消」という脅しが、こうした戦術の効果を強めていると述べた上で「これら全ては、イラン政権がこの戦争をイスラム共和国に対する戦争ではなく、国家としてのイランに対する戦争として描くのを助けている」と付け加えた。

ただ当局が国民の支持確保のために戦争中ほぼ毎晩のように集会を開催してきたが、体制の支持者も反対者もその結果については懐疑的だ。

国民からは、体制が支持されていると国際的にアピールする暇があるなら、経済を改善すべきだといった批判も出ている。

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