Helen Coster Rich McKay
[ニューヨーク 19日 ロイター] - 米国で多くの人がガソリン代の高騰に悲鳴を上げる中、ジョージア州エレンウッド出身で便利屋を営むマリ・ハイタワーさん(30)が引っ張り出してきた秘密兵器は、誰かのゴミ捨て場から拾ってきたおもちゃ同然の乗り物だった。高圧洗浄機からはぎ取ってきた単気筒エンジンと、2ガロン(約7.6リットル)の燃料タンクを積んだだけの代物だ。
芝刈り機のようにスターターロープを1回引き、狭苦しい車内に膝を抱えるようにして乗り込むと、ハイタワーさんはオフロードバイク用のヘルメットをかぶってスーパーマーケットへと走り出す。
「本物」の車である1996年製のメルセデス・ベンツのコンバーチブルは、満タンにするのに約90ドル(1万4000円)かかる。「高すぎる」と、食料品を入れるためのラックを屋根に取り付けたハイタワーさんは言う。「行ける時はこれ(おもちゃの車)に乗っている」
彼の解決策は珍しい例かもしれないが、ガソリン価格の急騰により、人々は日々の生活行動の見直しを迫られている。特に燃費の悪いスポーツ多目的車(SUV)や小型トラックなどの車に長年愛着を持っていた米国人は、公共交通機関を利用したり、遠出を控えるなどの代替手段を模索している。
米自動車協会(AAA)によると5月18日現在、米国人がレギュラーガソリンに支払う平均価格は1ガロン当たり4.52ドルで、イラン戦争が始まる前の約3ドルから上昇。ワシントンポスト紙とABCニュースが発表した4月28日のイプソス世論調査では、米国人の44%が運転機会を減らしたと回答した。
一方、経済的な苦境の中で好機を見出す人もいる。
マサチューセッツ州マシュピーでサマーキャンプ場を運営するレネ・トッチさんは、普段より40ドル近く多く払って愛車の高級SUV「ビュイック・エンクレイブ」を満タンにした際、あるアイデアを思いついた。夏の間ずっと、子供をあちこち送り迎えすることに大金を費やしている親たちに向けて、費用節約策として泊まりがけのキャンプを売り込むのはどうだろう、と。
「同僚からは『すごく面白い』と好評だったので、真面目に、あらゆるソーシャルメディアへ投稿してみようと思った」
トッチさんはオンライン広告やメルマガで「ガソリン代の節約」をアピールし始めた。ある投稿では「誰も教えてくれない節約の裏ワザ。それは、子どもを泊まりがけのキャンプに送り出すことだ」と売り込んだ。
<あらゆる階層の人がバス利用へ>
コンテンツクリエーターのダフネ・フローレスさん(28)は友人を訪ねるため年に数回、ワシントン州シルバーデールにある自宅からロサンゼルスまで車で移動していた。最近2カ月滞在した際は、車は近郊のグレンデールに停めたままにし、日々の移動は公共交通機関に切り替えた。
「ガソリンが高いのには慣れているが、これほど上がったのは初めてだ」とフローレスさんは話した。
彼女のトヨタ・ハイランダーを満タンにするには現在、少なくとも95ドルかかるため、運転するのは5マイル(約8キロメートル)以内に。高速道路近くのガソリンスタンドでは1ガロン9ドル近くに上昇していたため、近づかないようにしている。
自家用車を使わずバスに乗れば、車内で動画編集ができるし駐車料金も要らない。フローレスさんによると、ネット上では彼女と同世代の米国人の間で、同じように移動手段を見直す動きが話題になっているという。「人々がバスに乗っている動画をたくさん見かける」
この傾向は全米各地で顕著に見られる。メーン州バンゴーでは公共バスの利用者が1月以降21%増加し、特に通勤ラッシュ時の利用者増加が目立つという。
交通当局のローリー・リンスコット氏は、人々の様子を観察して人口統計学的特徴を把握しようとして、あらゆる階層の人々がいることに気づいたと話した。
<ガソリンカードの無料配布>
先日カリフォルニア州エルセグンドのガソリンスタンドでは、ラスベガス観光局が旅行者を呼び込むため、先着100人のドライバーに最大100ドル分のガソリンを提供するキャンペーンを実施したところ、1時間以上も行列ができた。
ただ、集まった人々のうち休暇のことを考えていた人はほとんどいなかった。
近隣住民のロバート・ジャクソンさんは、ガソリンは数日しか持たないだろうと予想していた。「今は歩いて電車に乗るしかない」と彼は言った。「大変だ。本当に大変だ」
ロサンゼルスに住むセゲッテ・フランクさんは、広大な街のあちこちへ買い物に出かけていたものだったが「今はガソリンが切れないように遠出を避けている」と言う。
シカゴのある教会では数週間以内に、25ドル相当のガソリンカードを総額5000ドル分無料配布する予定だ。デービス牧師は母の日の礼拝後に70枚以上のカードを配布した。
「多くの家庭にとって、交通手段はぜいたく品ではない。生き残るための手段だ」と同牧師は話す。
今のところ、この危機は電気自動車(EV)の購入急増にはつながっていない。ただ、一足先にEVに乗り換えていた人たち――とりわけ昨年、イーロン・マスク氏の政治活動などへの反発に巻き込まれたテスラ車オーナーにとっては、自らの選択の正しさが証明される形となった。
テスラ愛好家のグループである「テスラ・オーナーズ・オブ・シリコンバレー」の会長、ジョン・ストリンガー氏は最近、ガソリンスタンドの看板に書かれた高額な価格表示を映した動画を「TikTok(ティックトック)」に投稿した。
「ああ、私もこんなことで悩んでみたかった」とストリンガー氏はいたずらっぽく言い、カメラを愛車の高級電動ピックアップトラック「サイバートラック」に向けた。
もちろんこれは冗談だが、安堵(あんど)の気持ちは本物だという。
「あの動画の撮影を別にすれば、最後にガソリンの値段を気にしたのがいつだったか、自分でも全く覚えていない」