[ワシントン 20日 ロイター] - トランプ米政権は5月18日、バイデン前政権による不当な捜査・訴追の「武器化」で被害を受けた米国民に対する17億7600万ドルの補償基金を創設すると発表した。それ以来、2021年1月6日の連邦議会襲撃事件の関連で訴追されたトランプ氏とその賛同者らは、補償金の分け前にどうやってあずかろうかと、早くも奔走している。
トランプ大統領はこの日、自身の税務申告情報がメディアに漏洩した問題で財務省と内国歳入庁(IRS)に対して起こした訴訟を取り下げた。その代わりに司法省は、政府による司法の「武器化」で被害を受けた人々に補償するため、総額17億7600万ドルの基金を設立することを決めた。1776年の米国独立宣言の署名にちなんだ数字だという。
極右団体「プラウド・ボーイズ」のリーダーだったエンリケ・タリオ元受刑者は、連邦議会での暴動を巡る扇動共謀罪で22年の刑を宣告され、2025年に恩赦を与えられた。200万―500万ドル(最大7億9000万円)を受け取れると考えており、補償金を申請する計画だという。「私は強欲ではない。だが、このせいで私の人生はめちゃくちゃになってしまった」と彼は話した。
トランプ氏に恩赦を与えられた1500人以上の一部は現在、補償を期待して、訴追や拘留の期間、そして事業の破綻によって失った利益が一体いくらになるのか、そろばんを弾き始めている。
襲撃事件に関係する400人以上の被告人を担当しているピーター・ティクティン弁護士は、この基金では十分ではないかもしれないと考えている。「彼らは収監中、数百万ドル規模の事業を失った」と同弁護士は主張。「今後どれほどの規模で請求が押し寄せるか、司法省は分かっていない」
トランプ氏も、基金の規模が小さすぎるとの考えを示唆している。アンドルーズ空軍基地で記者団に対し「はした金に過ぎない。あの不当な捜査は、あまりにも多くの人々の人生を台無しにした」と不満を表明した。
民主党員に加えて一部の共和党員も、この基金の合法性に疑問を呈している。司法省がIRSに対し、トランプ大統領と親族、関連会社の過去の税務申告に関するいかなる調査も「永久に禁止」したことについても懸念を持っている。
襲撃事件当日に連邦議会議事堂を守る任務に当たっていた警官2人は20日、補償基金は「国民の血税を原資とした『裏金』」だと非難し、給付停止を求めて訴訟を起こした。
ブランチ司法長官代行は19日、議員らに対し、1月6日に警官を襲撃した人物であっても補償金の受け取りを禁止されることはないと述べた。
タリオ元受刑者自身は、警官を襲撃した人々も補償金を受け取るべきだと考えている。「司法省は政治的な思惑から、あまりにも多くの人々に無理やり『罪を着せた』。だから、誰もが補償金を受け取る資格がある」
民主党のジェイミー・ラスキン下院議員とリチャード・E・ニール下院議員は20日の書簡で、ベセント財務長官やブランチ司法長官代行らに対し、個人の支給額に上限が設けられるのか、またどのような報告書が公表されるのかを尋ねた。
「米国の歴史において、これほど露骨に、大規模な汚職をしようとした大統領はいなかった」と両議員は記した。
ティクティン弁護士は、司法省が申請手続きを策定し、司法長官が基金を監督する5人からなる委員会を任命しだい数百件の請求を提出する予定だ。高校時代の同級生だったトランプ氏に3月、電子メールでこのアイデアを提案したが、それが基金の創設に何らかの影響を与えたかどうかは分からないと言う。
襲撃事件で有罪判決を受けた被告の中には、司法省が「法廷闘争」「武器化」「被害者」など、自分たちが長年使用してきた言葉をそのまま採用したことを歓迎し、この基金を長年にわたる不当な扱いへの補償だと捉える向きもある。
議事堂内での行進、デモ、さらにピケを張った罪で有罪を認めたジェニー・カルソ・ハインル元被告は、Xに次のように投稿した。「今さらリベラル派が『不正の是正』とやらを求めて大騒ぎしたところで、手遅れだ。正義の鉄槌(てっつい)が下される日は近い」
トランプ支持者のうち少なくとも1人が既に正式な請求を行っている。元政権高官のマイケル・カプート氏はブランチ司法長官代行に対し、バイデン政権とロバート・モラー元連邦捜査局(FBI)長官による捜査を巡り、270万ドルの補償を求めた。
事態を複雑にしているのは、一部の民主党議員までもが補償金の申請を検討し始めている点だ。彼らは、トランプ政権の司法省から「根拠のない政治的意図に満ちた訴訟」を起こされた自分たちもまた、被害者だと主張している。司法長官代行は19日、この基金は党派を問わず受給対象になり得るとの見方を示した。
トランプ大統領の2期目以降、2度起訴されているコミー元FBI長官は、CNNで申請を検討していると述べた。「個人的、政治的、あるいはイデオロギー的な理由で司法省の標的にされた人々を補償するためのものだそうだ」とコミー氏は述べた。「であれば私も、その対象になるだろう」
だが、一部のトランプ支持者にとって、この基金は十分ではないかもしれない。警官への襲撃で有罪判決を受けたプラウド・ボーイズのメンバー、バリー・レイミー元被告は、補償金を受け取れば連邦刑務所局に対する自身の訴訟に支障をきたす可能性があるため、申請するかどうか迷っている。
「正義を求める私の取り組みは、金のためではない」と元被告は言い切った。「彼らが違法に行動したことを証明したいのだ」
ただ、もし本当に200万ドルをもらえるのなら、考え直すかもしれないと言う。