Milana Vinn

[ニューヨーク 14日 ロイター] - 電子商取引(EC)ブランドの販売拡大サービスを手がけるパターン・グループの共同創業者、デービッド・ライト氏とメラニー・アルダー氏が事業立ち上げのための資金として1000万ドルを必要としていたのは2017年だった。当時2兆5000億ドルの資産を保有していたJPモルガンのような巨大銀行にとって、その金額はほとんど取るに足らない規模だった。

それでもJPモルガンはわざわざ担当チームを、パターンが拠点を置く西部ユタ州に派遣し、同社の評価を対面で行った。

パターンのジェイソン・ビーズリー最高財務責任者(CFO)は「われわれは文字通り、デスクが幾つか置かれただけの倉庫におり、彼らがそこを訪れてそんな状況を目にしても決してひるむことはなかった」と振り返る。

こうした地道なアプローチが見事に成功。当初1億ドルだったパターンの年間売上高が昨年には25億ドルへと急成長する中、同社は2021年10月の2億2500万ドルに上るシリーズB資金調達、さらに昨年の1億5000万ドルのリボルビング・クレジット・ファシリティー(融資枠)確保において、JPモルガンを唯一の取引先銀行として選んだ。その後、JPモルガンはゴールドマン・サックスとともに、昨年9月に行われたパターンの新規株式公開(IPO)の共同主幹事に起用されて3億ドルの調達に従事し、パターンは時価総額が約25億ドルに膨れ上がった。上場以降も株価が27%上昇しているパターンは今年の売上高を33億ドルと予想している。

JPモルガンのイノベーション・エコノミー部門共同責任者を務めるアンドルー・クレッセ氏は「われわれは創業の初期段階からライフサイクル全体を通じて支援するプラットフォームという、他とは違う仕組みを構築している。IPOを目指す企業だけを探しているわけではない」と明言した。

<テック企業取引実績で首位>

パターンとの関係は、JPモルガンが採用している幅広い戦略の一端に過ぎない。それは早い段階で企業との絆を築き、共に成長するという戦略だ。売上高20億ドル未満の企業を対象とする商業銀行、より大規模な借り手を対象とするグローバル・コーポレート・バンキング部門、そして富裕層向け資産管理、コンシューマー部門を活用することで、JPモルガンは第1・四半期のテクノロジー投資銀行業務実績において、ライバルのゴールドマン・サックスを抑えて首位に立ったことが、ディールロジックの調査で明らかになった。この数字には株式・債券の引き受け、融資、企業合併・買収(M&A)が含まれている。

LSEGによると、ゴールドマン・サックスは案件総額ベースでテック関連M&A取引で首位を維持したものの、JPモルガンは他の分野で圧倒し、第1・四半期のテック投資銀行業務手数料全体の16.7%という市場シェアを獲得した。

ウェルズ・ファーゴの米大手行調査責任者、マイク・メイヨ氏は「JPモルガンは、資本市場、融資、およびそれに付随するあらゆるサービスを層状に重ねた、クラス最高のグローバル投資銀行を有している。会社全体をクライアントに提供している」と述べ、ゴールドマン・サックスやモルガン・スタンレーと肩を並べて業界トップ3の投資銀行に位置しているとした。

JPモルガンがこうした戦略を形にしたのは約10年前だ。同行は当時、ヘルスケアやテック分野において、創業者主導で成長が速く、ベンチャーキャピタルの出資を受けたスタートアップを、より早い段階からターゲットにする「イノベーション・エコノミー」バンキング・グループを設立した。23年にスタートアップ向け銀行業務を牛耳っていたシリコンバレー銀行が破綻した際にもJPモルガンは迅速に動き、シリコンバレー銀行の顧客の獲得と人材の採用に踏み切っている。

それ以来JPモルガンはテクノロジー投資銀行チームを拡大し、25年には十数人の幹部級人材を採用。バンク・オブ・アメリカからベテランのディールメーカー、ケビン・ブルナー氏を投資銀行部門のグローバル会長として引き抜いた。またバンク・オブ・アメリカからコーシック・バナジー氏とホーマン・ミラニ氏を、テクノロジー投資銀行グループのマネジングディレクターとして今年後半に迎える予定だ。

同チームは25年、3人の最も職位が高いテックバンカーを相次いで失うという後退も経験している。

全てのIPOがパターンのようにうまくいったわけでもなく、ステーブルコイン発行体のサークル・インターネット・グループのIPOで主幹事を務めた際には、1株31ドルで上場した株が取引開始日に95ドルまで高騰したことで、一部から調達額の設定が低すぎたとの批判を受けた。

それでもJPモルガンは現在、世界中で550人以上のバンカーがイノベーション・エコノミーの顧客を担当しており(うち200人は23年以降に採用)、40カ国で1万1000社以上のスタートアップや高成長企業と取引している。LSEGのデータによると、テクノロジー案件だけで、第1・四半期における投資銀行の総手数料収入32億ドルの22%を占め、同行で最もパフォーマンスの高いセクターとなった。

<早期からの食い込み>

早い段階でスタートアップに食い込み、融資、資本市場、アドバイザリーにわたってその関係を拡大することで、JPモルガンはそれらの企業が成熟した際に、最大級のテクノロジー案件でより大きなシェアを獲得できるという展開に賭けている。

その1つに料理宅配大手ドアダッシュの例が挙げられる。JPモルガンは、ドアダッシュの価値が10億ドル未満だった約10年前から提携を開始。同行は20年に「チェース・カード」保有者にドアダッシュの会員特典を提供することで同社の成長を支援し、その年末に上場へとこぎ着けさせた。最近ではドアダッシュによる39億ドルでの英デリバルー買収においてアドバイザーを務めた。

JPモルガンのグローバル・バンキング共同責任者を務めるジョン・シモンズ氏は「われわれは、企業が初期段階からエコシステムで最も重要なテック企業の一つになるまでを後押しできる特異な立場にある」と語る。ドアダッシュの現在の時価総額は約730億ドルに達した。

またJPモルガンは近年、幾つかの主要なテック企業のM&A案件のアドバイザーとなっている。

<信頼構築>

JPモルガンの幹部らは、このようなやり方は個別の取引に主に焦点を当てる従来の投資銀行モデルとは異なると主張する。

投資銀行部門のグローバル会長、ノア・ウィントローブ氏は、早い段階から関係を育むことで「顧客が複雑な取引を進めるために必要な信頼を築くことができる」と胸を張った。

元戦闘機パイロットで、最先端の宇宙インフラ・防衛技術を提供するボイジャー・テクノロジーズの共同創業者、マット・クータ氏は、24年12月に行われた恒例の陸海軍対抗フットボールの試合でJPモルガンのジェイミー・ダイモン最高経営責任者(CEO)に出会った。ボイジャーは既に商業銀行部門の取引先だったが、クータ氏は投資銀行を必要としていると伝えた。

これに対してダイモン氏はクータ氏をシモンズ氏に紹介し、担当チームは昨年、時価総額を約38億ドルとしたボイジャーの3億8300万ドル規模のIPOで中心的な役割を果たした。

JPモルガンのバンカー、クリスティーナ・ニルソン氏は、ボイジャーのディラン・テイラーCEOを量子技術企業インフレクションのマシュー・キンセラCEOに紹介することで、ボイジャーの最新の提携を支援。昨年11月にはインフレクションの原子時計「ティッカー」を、ボイジャーが開発を支援している商業宇宙ステーションや国際宇宙ステーション(ISS)での低軌道ミッションに統合する計画が発表された。

テイラー氏は、JPモルガンの対応の良さと内部の連携は際立っていると評価し、ダイモン氏が時折直接メールで近況を尋ねてくることもあると打ち明けた。

「もし今、ダイモン氏にメールを送れば1時間以内には無理としても、今日中には返信が来るだろう。彼が私のことさえ知っているという事実は、かなり特別なことだ」と述べた。

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