Tamiyuki Kihara Yoshifumi Takemoto
[東京 7日 ロイター] - 日本政府が大型連休中、ドル売り円買いの為替介入に踏み切った。日銀が政策金利の引き上げを見送った直後に薄商いとなれば、円安の一段の進行は避けられない。長引くイラン情勢の悪化に伴う物価高騰への対処は焦眉の急でもある。政府関係者は、こうした焦りが今回の判断に至った背景にある、と説明した。一方、政府内には高市早苗首相が掲げる「責任ある積極財政」政策を念頭に、介入によって円安基調を根本的に是正するのは難しいとの声も漏れる。
<160円には戻したくない「強い意向」>
「日銀が4月の金融政策決定会合で政策金利を引き上げず、このまま連休に入れば円安が一気に進むことが目に見えていた」。政府関係者は7日、ロイターの取材にこう述べた。4月30日に政府が踏み切った介入の背景に、大型連休中の投機的な動きにくさびを打ち込む思惑があったとの認識を示したものだ。
連休中の為替市場は不安定な動きを続け、円安方向に戻しては一気に円高が進む乱高下を繰り返した。同関係者は5月に入ってからの介入の有無について断定を避けたが、政府にはこれまで「防衛ライン」と見られてきた1ドル=160円の水準に戻したくないとの「強い意向」があるとの考えを示唆した。
財務省の三村淳財務官は7日、記者団の取材に介入の有無には「コメントする必要はないと思う」と述べた。4日と6日にドル/円が急落したことについても言及を控え、引き続き為替市場では投機的な動きが続いているとの認識を示した。
また、国際通貨基金(IMF)が自由変動相場制とみなす国では介入が半年間に3回以内、各回の介入は3営業日以内の実施とされる点については、「各国の為替相場制度に関する分類基準に過ぎず、介入の回数を制約するルールとは思っていない」とも語った。
<高市氏による政策の「負の部分」>
もともと政府内には、高市氏による積極財政政策に伴い、円安基調が一向に是正されないとの危機感があった。表向きはイラン情勢に起因する「有事のドル買い」などが円急落の要因とされるが、経済官庁幹部は「それがリアルな理由か疑問だ」と語り、円が弱い根本的な原因に目を向ける必要性を強調した。
別の政府関係者は「高市氏は日銀に利上げはしてほしくない一方で、国民の生活を直撃する物価高も何とかしたいと考えている」と解説。打つ手が限られる中で、介入という「人為的な手法」を採らざるを得なかったというわけだ。
ただ、同関係者は一時的な円高誘導を達成できたとしても、高市氏の政策が変わったわけではない、と指摘。今回の介入によって政府が目指す為替水準を維持できるかは不透明だとした上で、「高市氏が進める積極財政と緩和的金融政策の負の部分が為替に表れている」と述べ、円高基調を持続させるには財政規律を重視した政策への転換が不可欠だと強調した。
<専門家が指摘する「政策の限界」>
一連の状況を専門家はどう見ているのか。
野村総合研究所のエグゼクティブ・エコノミストの木内登英氏は、「円安は物価高につながる。すでに物価高で国民が怒っていることを政権はよく理解しており、高市氏も今回の介入を支持したということだろう」と見る。ただし、円高誘導を目的とした日銀の利上げについては、「高市氏は引き続き慎重姿勢だと考える」と述べた。
「政府と日銀の政策協調がしっかりしていれば、為替市場にそれなりの良い影響を与えることができると思う」と指摘する一方、「そもそも日銀の利上げだけでは円安是正は難しい。日本国民の期待インフレ率が高まっており、これが物価高の要因になっている」とした上で、「やはり原油価格の下落が必要だ。日本独自の政策だけでは限界があるだろう」と語った。
こうした中、関係筋によると米国のベセント財務長官が11日から来日し、高市氏や片山さつき財務相のほか、日銀の植田和男総裁とも会談する。SBI証券のチーフ債券ストラテジスト、道家映二氏は「いま米国にとって最大の問題は米金利の上昇だ」とし、「ベセント氏は金利上昇を何とかしてほしいと言ってくるのではないか」と指摘。金利に影響する財政・金融政策の両面が大きな議題となる可能性があると語った。
(鬼原民幸、竹本能文 グラフィック作成:田中志保 編集:橋本浩)