FIFA(国際サッカー連盟)のジャンニ・インファンティーノ会長は日々、どんな思いでイランなど中東のニュースを見ているのだろう。

専横にも映るドナルド・トランプ米大統領が2月28日、イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相と共にイランへの攻撃に踏み切ってから約2カ月。終息への道筋が見通せないなか、4年に1度のビッグイベント、サッカーのワールドカップ(W杯)の開幕が6月11日に迫る。

アメリカ、メキシコ、カナダの3カ国による共催だが、そのうち世界屈指の超大国が大会期間中も戦争の渦中にいる可能性が否定できない。戦いの当事国であるイランも北中米に集う48チームに名を連ねる。しかもロサンゼルス、シアトルで1次リーグを戦うことになっている。

戦時下の祭典は避けたい。だから、見え透いたゴマすり作戦と揶揄されるような策に打って出たのに……。就任10年目を迎えたサッカー界のトップ、インファンティーノは今、そんな思いでいるのではないか。

イラン代表は3月31日の親善試合前のセレモニーで、戦争の犠牲となった子供らの写真を手にした
イラン代表は3月31日の親善試合前のセレモニーで、戦争の犠牲となった子供らの写真を手にした ORHAN CICEKーANADOLU/GETTY IMAGES

時計の針を巻き戻してみる。

昨年11月5日、FIFAが新しい賞の創設を唐突に発表した。名付けて「FIFA平和賞」。会長自身がその意義を誇った。「不安定で分断された世界において、紛争を終わらせ、平和の精神に基づいて人々を結び付けるために尽力する人の貢献を認めるのは大事なことだ」

もうこの時点で、誰が受賞するのかはピンときた。

自己顕示欲と承認欲求が露骨なトランプが、ご執心のノーベル平和賞を逃したばかりのタイミングだった。FIFAは、12月5日に首都ワシントンで開くW杯の1次リーグ組み合わせ抽選会で受賞者を発表することを明かしていた。

この舞台設定でトランプ以外の人を選んだら、ホワイトハウスの主人がお膝元で恥をかく。W杯開催にへそを曲げるかもしれない。そもそも抽選会は当初、1994年の米W杯と同様に娯楽の「聖地」ラスベガスでの開催が有力視されていたのを、トランプの意向を受け、ワシントンの文化施設ケネディ・センター(現トランプ・ケネディ・センター)に変更させた経緯もあった。

賭けのオッズは必要なかった。世界中のメディアが予想したとおり、受賞したのはトランプだった。

後日、FIFA幹部に背景を聞くと、あきれながらこう明かした。「受賞者選定委員会が発足したとも聞いていない。何も知らないうちに決まっていた」