純粋な「溺死」で亡くなったご遺体はごくわずか
では、津波で亡くなったご遺体の所見とは、具体的にどのようなものなのでしょうか。
実際に地震や津波を経験された方にとっては読むのがつらい描写もあるかもしれませんが、突然の自然災害から身を守るためにはどうすればいいかを考えるためにも、私がみたこと、感じたことをみなさんにお伝えしたいと思います。
私は震災直後、第1陣の検案班メンバーとして現地に入りましたので、検案したのは陸地でみつかったご遺体が大半でした。
3月20日から検案を担当した第2陣以降は、陸地での捜索が少し落ち着き、海を漂流していたご遺体を多数検案したと聞いています。
私が検案したご遺体のほとんどは津波による溺死と判断されました。それ以外は焼死や凍死、避難所が寒かったことによる低体温症、避難先で練炭で暖を取っていたことによる一酸化炭素中毒、揺れに驚いたことで発症した心筋梗塞などによって亡くなっていました。
100人のご遺体があったとしたら、そのうち92、93人は溺死という印象です。ただし、純粋な溺死はごく少数です。所見からは、ひどい外傷や寒さなど、いくつもの要因が複合的に作用して亡くなったことがみて取れました。
要因の一つとして挙げられるのが、胸部圧迫です。
家や建物、車や船、がれきを含んだ波が時速数十キロで胸や腹部に当たることで呼吸ができなくなり、死に至るケースです。がれきが頭に当たり、脳挫傷などの大ケガを負って亡くなったケースもありました。
大量の水を飲み込んだことによる窒息や、冷たい海水の中でがれきや木につかまって助けを待っていたものの、寒さで低体温症となり、亡くなったケースもありました。
津波では、漂流物などといっしょに海水に巻き込まれるため、外表上に細かい傷のある人が多くみられました。また、触診をすると、体内で肋骨や頸椎が折れているご遺体も多くありました。解剖はできませんでしたが、おそらく内臓はかなりの損傷を受けていたはずです。
高木徹也(タカギテツヤ)
法医学者。1967年東京都生まれ。
杏林大学法医学教室准教授を経て、2016年4月から東北医科薬科大学の教授に就任。東京都監察医務院非常勤監察医、宮城県警察医会顧問などを兼任し、法医解剖施行数は6000件に迫る。『ガリレオ』『ヴォイス〜命なき者の声〜』『しあわせな結婚』など、法医学・医療監修を手掛けたドラマや映画は多数。
著書に『なぜ人は砂漠で溺死するのか?』(メディアファクトリー)『こんなことで、死にたくなかった 法医学者だけが知っている高齢者の「意外な死因」』(三笠書房)などがある。
