開戦間近となれば、どの海岸にも容赦ない防御網が築かれているはずだ。台北に通じるルートは厳重に警戒されており、いざ非常事態となれば爆弾を仕掛けるなどして進撃を阻む用意ができている。

台湾島の西部海岸で上陸作戦が可能と思える場所は13カ所しかない。その全てで、既に備えはできている。想定される上陸地点には地下トンネルが縦横に張り巡らされている。装備品などを隠すコンクリートの地下倉庫もある。浜辺から内陸部に通じる境界に沿った地面には鋭い葉先を持つ植物が茂る。海岸地帯には化学工場が多いので、無差別に爆撃すれば有毒ガスが拡散する恐れもある。

それだけ時間の余裕があれば、台湾側はいろいろできる。軍隊の主な施設を山間部のトンネルに移し、無防備な港湾から艦船を退避させる。中国側の工作員などとおぼしき者の身柄を拘束する。周辺海域に機雷を敷設する。地上部隊を島内各地に分散・偽装する。島全体に戦時体制を敷き、予備役165万人に武器を配る。

それに、大艦隊が海を渡る大掛かりな作戦で「意表を突く」のは不可能だ。しかも台湾の情報機関は中国本土に深く潜入している。イーストンの推定では戦闘開始の60日以上前に上陸作戦の準備中と判明し、台湾だけでなく日米両国も警戒態勢に入る。そして最初のミサイルが発射される30日以上前に、警戒は確信に変わるという。

まず、海峡を渡れるのは4月か10月だけだ。1年のうち、台湾海峡の気象条件が良好なのは4月と10月の各4週間しかない。

これが中国側の描くベストなシナリオだ。しかし、そう簡単に運ぶ保証はない。そもそも先制攻撃で台湾側の「意表を突く」のは至難の業だ。

既に制空権を確保しているから、中国の空軍機はどこでも空爆できる。一方で地上の侵攻部隊は孤立した台湾兵の残党を次々に敗走させる。上陸から1週間もあれば、中国軍は台北を占領できる。2週間もあれば戒厳令を発し、島全体をアメリカや日本からの反撃に備える前線基地とすることができる。

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広東省で上陸作戦の訓練をする中国の海兵隊(17年8月) ZHOU QIQING-CHINA NEWS SERVICE-VCG/GETTY IMAGES

中国側の資料によると、高層ビルや岩山の間にワイヤを張り渡し、ヘリコプターを墜落させる仕掛けもある。トンネルや橋、高架道などには、ぎりぎりの段階で破壊できるように弾薬が仕掛けられる。建物が密集した都市部ではおのおのの建物が小さな要塞と化し、激しい市街戦が繰り広げられるだろう。

こうした防衛戦の怖さを理解するには、人民解放軍の歩兵の身になって考えてみればいい。ご多分に漏れず、きっと貧しい地方の農村出身者だ。生まれてこの方、台湾が中国に太刀打ちできるはずはないと教え込まれ、分離独立派に身の程を思い知らせてやるつもりでいる。

上陸部隊は撃退される

ところが、現実はそう甘くない。あと数週間で戦闘開始というタイミングで、安徽省の祖父母に仕送りをしていた上海のいとこが失業する。台北からの電信送金が全面的に停止され、台湾企業で働く数百万の中国人への給与支給も止まったからだ。

彼は戦闘開始を広東省汕尾で待つ。なじみのない華南地方の森で3週間、戦闘の特訓を受けるのだ。外部からの情報は遮断されているが、噂は耳に入る。昨日の列車が10時間遅れたのは鉄道事情ではなく、妨害工作のせいだという。今日の噂では、広東省湛江で海兵隊の第1旅団長が暗殺された。繰り返される停電が本当に計画的なものなのかも、疑問に思えてくる。

そして上陸部隊の集結する福建省福州に到着した頃には、中国軍の無敵神話も疑わしくなる。当地の軍事施設はミサイル攻撃を受けて瓦礫の山だ。台湾から飛来するミサイルより台湾へ撃ち込まれるミサイルのほうが多いはずだと思って気を取り直しても、とうてい適応できない。度重なる空爆の衝撃により、軍隊への信頼感が薄れていく。

恐るべき一斉攻撃を浴びるのは揚陸艦に乗り込んでからだ。立派な強襲揚陸艦に乗り込める彼は幸運なほうだ。急きょ商船を改造した揚陸艦もある。

この日のために台湾側が用意した潜水艦が魚雷を撃ち込んでくるかもしれない。上空の戦闘機からアメリカ製の対艦ミサイルが飛んでくるかもしれない。内陸部の地下基地を飛び立ったF16戦闘機が接近してくる。

死者が一番多いのは機雷による被害だ。海峡を渡ってきた艦隊の目前に、場所によっては幅13キロの帯のような機雷の海が広がる。荒波にもまれて船酔いする歩兵の彼は、乗り込んだ揚陸艦の幸運を祈るしかない。

海岸に近づくにつれ、彼の心理的圧力は高まる。イーストンの研究によれば、岸に向かう最初の船は突如として海面から立ち上る炎の壁に行く手を阻まれる。炎は水面下に設置された数キロに及ぶ石油パイプラインから噴き出す。

幸運にも搭乗艦が炎をくぐり抜けても、上陸後には「有刺鉄線、鉄条網、スパイクストリップ、地雷、対戦車障害物、竹槍、倒木、トラック、廃車になった車など」の障害物が1キロ以上にわたって配置されている。

中国軍は無敵ではない