Kentaro Sugiyama

[東京 16日 ロイター] - 有給休暇を使えば最大12連休も可能となる今年のゴールデンウィーク(GW)だが、多くの家計は支出を拡大する構えを見せていない。長引いたデフレの閉塞感は薄れたが、代わりに物価高が続く中で将来への備えを優先する消費行動が定着しつつあり、経済の「好循環」を阻害するリスクも秘める。

GWは、生活必需品とは異なる裁量的な支出が増えるため、家計の消費判断が行動として表れやすい側面がある。旅行や外食、レジャーなどへの支出は、先行きへの安心感に左右されやすく、消費マインドを測る手掛かりとなる。

調査会社のインテージ(東京都千代田区)が3月末、15歳から79歳の男女5000人を対象に行ったアンケートによると、今年のGWにかける全体予算は平均2万7660円と、前年から5.4%減少。外出・旅行需要が回復した2023年以降で最も低い水準となった。

さらに、GWの過ごし方では「特に予定はない」とする人が41.2%と、過去4年で最多。同社の市場アナリスト、依田亜矢香氏は「推し活やギフトなど、目的が明確な支出は大きく落ち込んでいない」と指摘。その上で「目的があいまいな支出は先送りされやすく、支出の優先順位を明確にする消費行動への変化が象徴的に表れた」と話す。

<投資で備える>

内閣府がまとめた3月の消費動向調査によると、1年後の物価について「上昇する」と見込む回答は93.1%と、2月から7.5ポイント上昇した。このうち「5%以上」上昇すると見込む割合は53.4%と、16.9ポイント増え、この先もインフレが続くとの見方が広がっている。

物価上昇が一時的ならば、消費者は支出を先送りして「いずれ元に戻る」ことを待つ。デフレ経済でも消費者は物価のさらなる下落を見越して購入を先送りした。しかし、「物価は上がらない」というノルム(社会通念)が転換し、高コスト環境が常態化する中、低・中所得者層は単なる節約とは異なる「この状態でどう暮らすか」という順応型の消費行動に移行しつつある。

現役世代で新NISA(少額投資非課税制度)の活用が広がっている背景も、その延長線上にありそうだ。将来への備えとして、日常の消費を抑えつつ投資を志向する若者も出てきているという。大和証券の末広徹チーフエコノミストは「インフレ耐性の強い株式などを買い、将来に『投資で備える』行動が増えている。いわゆる『NISA貧乏』的な動きは、インフレへの備えとつながっている」と話す。

日銀が先月発表した資金循環統計からも、「貯蓄から投資」へ家計の資金シフトが確認できる。昨年末時点の家計の金融資産のうち、株式等は前年比22.6%増、投資信託は21.3%増と、いずれも残高が過去最高を更新。一方、現金・預金は0.5%増にとどまり、資産配分の変化が鮮明となった。

<重なる外部リスク>

足元では、米国とイランの戦闘終結に向けた再協議を巡る先行き不透明感などから、原油価格やエネルギーコストを巡る警戒感もくすぶる。中東情勢の緊迫は、夏場から年後半にかけて物価高が再燃しやすい環境を形成している。

大和証の末広氏は、消費が弱い根底には根強い将来不安があると指摘する。「かつては財政リスクやデフレによる閉塞感が焦点だったが、今はインフレが不安の中心に移っただけだ。将来不安がある限り、無駄な消費を避ける行動は続く。中東情勢の緊迫や原油高は、その心理に拍車をかける」と話す。

消費行動の重心が「いま使う」から「いま備える」へ移りつつあるとすれば、政府が目指す「賃金と物価の好循環」は新たな課題に直面する。賃上げが進んでも、家計が消費より生活防衛や将来に備えた資産形成を優先すれば、個人消費が景気のけん引役として力強さを取り戻すのは容易ではない。

末広氏は「物価はデフレからインフレへとノルムが変わったが、国民の多くが抱える『将来不安』のノルムは変わっていない」と強調する。問われているのは「動いても大丈夫だと家計が確信できる環境が整えられているかどうかだ」と話す。

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