Tim Kelly John Geddie Tamiyuki Kihara Nobuhiro Kubo
[東京 15日 ロイター] - 日本政府が近く決定する武器輸出の規制緩和に、欧州や東南アジア諸国が関心を寄せている。武器の主要な調達先だった米国の供給能力がウクライナやイランの紛争でひっ迫、自国第一主義を掲げる同国への信頼も揺らいでおり、世界の武器市場から距離を置いてきた日本をサプライチェーン(供給網)に組み込みたいとの思惑がある。武器輸出に慎重だった日本企業も、生産能力や海外での情報収集を強化するなど前向きな姿勢に転じつつある。
<「ペナルティボックス」から復帰>
「日本が加わることで解消できるボトルネックがある」。在日ポーランド大使館のマリウシュ・ボグシェフスキ次席はロイターの取材に語った。ポーランドはロシアと緊密なベラルーシと国境を接し、軍の近代化を進めている。無人機(ドローン)対応や電子戦などで日本と協力し、防衛装備の不足を補えると説明した。
西側諸国の武器のサプライチェーンは米国が長年主導してきたが、同国の対外有償軍事援助(FMS)制度による調達は、同盟国にとって納期遅延と高コストが悩みの種だった。近年はウクライナとイランの紛争で弾薬不足が深刻化し、トランプ大統領の同盟国を恫喝するような発言も不安を増幅させている。
匿名の欧州外交官3人は、日本の武器輸出緩和で米国製への依存を減らせる可能性があると指摘。トランプ氏が北大西洋条約機構(NATO)離脱やグリーンランドの武力併合に言及したことで、米国への信頼が揺らいでいると打ち明ける。
日本は安倍晋三政権時の2014年に武器の禁輸政策を転換したが、ミサイルや戦闘機、艦船など殺傷能力がある完成品の輸出には踏み込まなかった。高市早苗政権は防衛装備移転三原則の運用指針を変更し、日本と協定を結んでいる国には事実上全面解禁する方針で、4月末までに正式決定する。紛争地域への禁輸は原則維持する。政府関係者によると、すでにフィリピンへの中古護衛艦の輸出などを有力候補として検討している。
武器輸出政策の見直し作業に関わる与党関係者は「最大のポイントは米国に頼らないアジア、オセアニアの防衛サプライチェーンを作ることだ」と話す。「改定が実現すれば、武器は事実上、何でも輸出できるようになる。中国への対抗を考えても、米国の意向に左右されない防衛力を日本とその他の国々で備えることは非常に意味がある」と解説する。
日本は世界の武器市場から隔離状態にあったが、今や年間10兆円の防衛費を計上、潜水艦を含めた艦船や哨戒機、ミサイルなどの完成品、センサーや複合材などの部材を開発・生産できる産業力がある。ドイツの防衛企業タウルス・システムズは昨年5月、改良を計画する巡航ミサイル用のエンジンを求めて川崎重工業と覚書を結んだ。フィリピンはかねてから、中古の対潜哨戒機など海軍力の強化につながる武器供与を日本に打診している。
東京を拠点に防衛産業のコンサルティングを手掛けるネクサス・パシフィックのアンドリュー・コック氏は「日本は第2次世界大戦の影響で『ペナルティボックス』に入れられていた」と言う。「しかし、いずれ国際政治の本流に戻ることは避けられなかった」と語る。
ロイターは日本の首相官邸にコメントを求めたが、三原則の見直しに言及した2月の高市首相の施政方針演説を参照するようにと回答があった。高市氏は演説で「同盟国・同志国の抑止力・対処力強化に資するとともに、わが国の防衛生産基盤や民生技術基盤の強化にもつながる」と語っていた。米ホワイトハウスの報道官は、日本の武器輸出政策の変更に関する質問には回答しなかったが、両国の関係はこれまでになく緊密だと述べた。
<東南アは完成品、欧米は供給網参画>
課題の1つは、日本企業の多くが武器輸出への関与に慎重なことだ。
ラトビアのズィグマールス・ズィルガルヴィス駐日大使は、23年に同国のVRカーズ社が軍用車両向けエンジンをトヨタ自動車の子会社から調達しようとした件に言及した。ラトビア当局が仲介を試みたが、取引は成立しなかった。特殊車両を手掛けるトヨタカスタマイジング&ディベロップメント社はロイターの取材に「当社の事業範囲と方針に照らし」、軍用車両に関する依頼には対応できないと判断したとコメントした。VRカーズは、トヨタ側の判断を尊重すると回答した。
防衛事業を手がける企業の間でも、武器輸出が他の事業に及ぼす影響への懸念は根強い。一方、日本政府が防衛力増強を進めていることなどを背景に変化もみられる。レーダーや短距離ミサイルなどを手掛ける東芝は、今後3年間で約500人を防衛部門で新規採用し、試験棟と製造施設を増設する。輸出を担当する部署も25年に新設した。
ここ数年は国内外の防衛装備の展示会に積極的に出展し、海外の需要を探るなどしている。ミサイルの完成品も輸出可能になる日本の規制緩和を控え、東南アジア諸国からは防空システムへの関心が寄せられているという。
防衛・電波システム事業部長の小林健児執行役員はロイターの取材に対し、防衛力増強に対する最近の世論調査に言及したうえで、「日本の国民感情も変わってきているのだと思う。レピュテーションリスクを気にしなくていいということはないと思うが、私どもは気にするというよりも、しっかり使命を果たし、事業もやっていこうと考えている」と話した。
23年にフィリピンへレーダーを移転し、日本で最初の完成品輸出の成功事例を作った三菱電機は、シンガポール、英ロンドン、米ワシントンに情報収集要員を配置している。アジアは域内の安全保障環境の変化、欧州もウクライナ戦争の影響を受けて防衛力強化の意識が強く、案件の相談が増えているという。
防衛・宇宙システム事業本部長の洗井昌彦上席執行役員は「政府間で作った案件が落ちてくるよりも、自分たちの得意な技術を最も評価してくれる顧客にシステムを提供したいと思っている。自分たちでも案件発掘はしっかりやっていく」と語った。
両社に共通しているのは、東南アジアでは完成品の輸出、軍需産業が成熟している欧米では現地企業への供給網参画を有望視していることだ。東芝の小林氏は、世界の供給網に入ることが出来れば国外の受注規模は今後5年ほどで自衛隊向けと同程度まで伸びる可能性があるとの見方を示す。三菱電機は国内外合わせた防衛事業の売上高について、30年度には24年度比50%増の6000億円以上を見込んでいる。
<特に強い欧州の関心>
アジアには武器輸出に積極的な国として韓国というモデルがある。ストックホルム国際平和研究所によると、21年から5年間の韓国の武器輸出はそれまでの5年間から24%増加した。ポーランドとフィリピンの最大の供給国となっている。
国内総生産(GDP)世界4位の日本の潜在力はさらに大きい。防衛産業の規模は韓国やドイツ、イタリア、イスラエルと肩を並べ、インドのほぼ2倍に達する。
在日フィンランド大使館のスヴィ・スンドクィスト商務参事はロイターの取材に、特に欧州の外交官が日本の防衛企業への働きかけを強めていると説明した。日本企業との最近の会合について「自分たちが訪問したら別の国が先客でいた。私たちが終わったら別の国が来た」と話した。
(Tim Kelly、John Geddie、鬼原民幸、久保信博 取材協力:Karen Lema、Trevor Hunnicutt 編集:石田仁志)