体内時計の司令塔は脳の視交叉上核(しこうさじょうかく)で、全身の細胞にも時計の分子機構は存在します。体内時計のリセットが必要な場合、これまでは徹夜の後に長時間寝て合わせたい時計に身体を合わせたり、効果的なタイミングで光を照射して人工的に「朝」にしたりといった方法が考案されてきました。

近年は、2010年に日本でも販売されるようになった入眠改善薬「ロゼレム」も体内時計の調節に使われるようになりました。ただしすべての人に適用できるわけでなく、とりわけ安定的かつ簡便に体内時計を前進させる方法は確立できていないのが現状です。

「時計を進めて」睡眠障害を治療できる可能性

今回、金沢大などによる研究グループは、哺乳類の体内時計を構成する主要な遺伝子群のうちPer1と呼ばれるもののスイッチに選択的に作用し、Per1を特異的に誘導する化合物「Mic-628」の同定に成功しました。

Mic-628をマウスに経口投与すると、投与するタイミングにかかわらず、体内時計の司令塔である脳の視交叉上核と、肺などの末梢組織の時計が同時に前進し、マウスの行動リズムも常に約2時間早まることが確認されました。

さらに、光周期(1日の中での明暗のサイクル)を6時間前進させた「時差ぼけモデルマウス」を作成し、Mic-628を1回投与してみたところ、通常であれば約7日間かかる「再同調期間(新しい環境の時刻に体内時計が同調する期間。いわば"時差ぼけが解消されるのにかかる時間")」が、4日へと大幅に短縮されました。

研究者たちは、Mic-628が示す極めて高い遺伝子誘導特異性を持つ(調べた12907遺伝子中、体内時計の前進に携わるPer1を含む3遺伝子しか誘導しない)ことと、その特異性の分子機構も明らかにしました。

また、光照射による時差ぼけ解消は、体内時計の前進および後退の双方から再同調させることが可能ですが、Mic-628を投与する場合、安定的かつ恒常的に「位相前進作用」(体内時計のタイミングを早めること。東向きフライトの時差ぼけ解消に必要な作用)を持つことが分かりました。

この作用は、Per1遺伝子から転写・翻訳されたPER1タンパク質自身による自己抑制フィードバック機構に基づくことが、数理モデル解析で示唆されました。

研究者たちは、Mic-628が①従来は同調が困難だった体内時計を「進める」方向のみに働くこと、②服用のタイミングを選ばないこと、に注目し、東向きフライトや交代制勤務に伴う睡眠障害に対して、革新的な治療に役立つ可能性があると期待しています。

もちろん、「体内時計調整薬」として認められるまでには、安全性を評価したり、マウスだけでなくヒトにも十分な効果があることを検証したりしなければならないなど、乗り越えるべきハードルはいくつもあります。ビジネスや旅行で現地到着直後から元気に動けたり、交代制勤務でも有意義に余暇を使えたりする日常が、早く来てほしいですね。

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