政策はデータやモデルだけでなく、経験にも左右される。中央銀行は22年の過ちを繰り返したくないから、イラン戦争で圧力が生じても、インフレは結果的に制御される可能性が高い。原油価格上昇の影響は今のところ限定的で、3月のインフレ率は2月から約0.5ポイント上がって2.5%となった。ECBもこれなら対処できるはずだ。
ヨーロッパにはもっと深刻なリスクがある。戦争による天然ガスの価格上昇に直面する産業界は、補助金と二酸化炭素排出削減目標の緩和を求めて強力にロビー活動を展開。政策立案者はその圧力に屈しつつある。
前回の欧州理事会では、「グリーン移行」の中核をなすEU排出量取引制度(EU ETS)の見直しが求められた。イタリア政府はETSが設定する炭素価格によるコスト増を補塡すると発表した。
これは憂慮すべき展開だ。地球温暖化の悪影響は急速に拡大している。気候変動対策までイラン戦争の「犠牲者」にすれば、欧州はいずれ後悔するだろう。
ダニエル・グローDANIEL GROS
ドイツ出身の経済学者。IMFのアドバイザーなどを経て、現在はシンクタンク欧州政策研究センター研究部長。主な研究テーマはEUの経済政策で、欧州議会への助言も行う。
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