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陶酔の時間は夏の終わりの別れに続く (c)FRENESY, LA CINEFACTURE

ある日のこと。オリバーに村を案内していたエリオは、自分の熱い思いを隠し切れなくなってしまう。撮影を担当したタイ出身のサヨムプー・ムックディプローム(『ブンミおじさんの森』)は、このせつない告白シーンを長いカットで繊細に描いている。

広場にいる2人の間にはモニュメントがあり、2人は互いの顔を見つめているが、観客からは顔が見えない。彼らが関係を結んだとしても、それは秘められたものでなければならないことを暗示する構図だ。

オリバーが以前に同性と関係を持ったことがあるかどうかは不明だが、いずれにせよ性急なエリオに比べて慎重なことは確か。道徳的な配慮でそうしているのか、深入りするのを恐れてかは分からないが、しっかり時間をかけて少年の思いを受け入れていく。

やがて2人は親密な仲になるが、エリオの両親もその気配に気付いたのだろう。オリバーが帰国する直前、お別れに2人でちょっと旅をしたらどうかと勧める。解き放たれた2人は花の咲き乱れる高原を歩き、人気のない広場で思いきり踊りまくる。

記憶に残るラストシーン

それは楽しくも悲しい旅。陶酔の時間はそのまま夏の終わりの別れに続いていた。

『ミラノ、愛に生きる』や『胸騒ぎのシチリア』ではオペラのように濃厚なラブストーリーを凝りに凝った映像で描いたグァダニーノ監督だが、本作ではひたすら淡々とした、より自然主義的なアプローチをしている。

だから表面的にはのどかな田園風景の中で繰り広げられるおとぎ話だが、そこにはしっかり道徳的な教訓も込められていて、ヌーベルバーグの巨匠エリック・ロメールの作品に通じるところもある。

35ミリフィルムで丁寧に撮った光あふれる映像はあくまでも美しい。色彩も自然の音も建築物も、全てが美しい。もちろんアーミー・ハマーの姿も。そして観客は、まるでスクリーンの中に入り込んだように感じることだろう。

全ての自意識を捨てて踊りまくるオリバーの姿、そして感動的なラストシーンで長いクローズアップで映し出されるエリオの表情に、半ば忘れかけていた自分の初恋を思い起こす人もいるはずだ。

繊細な演技で思春期の少年の危うさを表現したシャラメは、本作の大きな収穫だ。ちなみに原作では、いったん引き裂かれた2人がやがて再会することになっている。もしかして、この映画には後編があるのかも。

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