キャンプの鳩

カラ・テペ難民キャンプの入り口あたりに看板があった。
一度それをスマホで撮ったが、よく見るとさらに寄って撮っておくべき絵が描き添えられていた。
鳩だった。
ノアの方舟から飛び立って、のちの人類たちの隆盛を予感させた鳥。
平和の象徴ともなった一羽の動物。
それが国際色豊かな難民キャンプを守っていることが皮肉なのか、それとも理想的なのか。俺には今でもよくわかっていない。
ただ、それからアテネに戻り、MSFの他のスタッフにもたくさんインタビューをした。
彼らは眼前のリアルな困難から目をそむけず、無力であるという人間存在の条件を受け止めながら、しかし未来がよりよくなるという信念の方向へと活動を続けているのだった。
それは方舟にとっての鳩のようではないか、と俺はカタール航空ドーハ発QR812が羽田へと高度を下げるのを感じながら改めて思うのだ。
鳩は自己の安全を感じて舟を去ったのでなく、去って新たな世界を作ろうと意思したのではないか。それが平和を生むべき人間の、大切な行動の指針になるのではないか、と。
俺の隣の席にいた身体の大きな青年は、もはやどこにもいない。
彼もまたどこかへ飛び立っていったのではないか、と俺は感じている。
そして、そうやってよりよい世界を作ろうと飛ぶ「鳩」たちの横に、俺はいつでも寄り添っていたいと思う。

<ギリシャ編終了>

※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。