<大統領が国際緊急経済権限法(IEEPA)を根拠に包括的な関税を課すことが憲法の枠を越えるのか――>

トランプ米大統領が「アメリカが解放される日」として、多くの国・地域に法外な相互関税を課すと発表したのは今年4月。その合憲性が争われている裁判で米連邦最高裁は11月5日、口頭弁論を開いた。

現在、最高裁の判事は9人中6人が保守派。しかも、このうち3人はトランプが第1次政権のとき指名した判事だ。そのせいもあってか、最近は大統領の権限を拡大するような判断が目立っていたが、今回は勝手が違うようだ。

最大の争点となっているのは、政権が関税の根拠としている国際緊急経済権限法(IEEPA)が、大統領にそこまで包括的な関税を課す権限を与えているのか、もし与えているならこの法律に違憲性はないか、の2点だ。通常、関税措置を決定するのは議会の仕事であり、「緊急」の措置は慎重に範囲を限定して行われるのが原則だ。

この問題を扱った下級審では、既に3つの裁判所が「違憲」の判断を下している。トランプは7月にX(旧ツイッター)で、「(外国の)関税に対して関税によって自衛できなければ『死』も同然だ」と息巻いており、最高裁の判断が注目されていた。

政権側は、IEEPAには大統領に「輸入を......規制する」権限を与えるという文言があり、これには関税措置が含まれると主張してきた。だが、最高裁判事はおしなべて懐疑的な見方を示唆した。

保守派のキャバノー判事は、「『輸入を規制する』をどう定義するかが最大の問題だが、法施行後にそれを定義した大統領はいない」と指摘。IEEPAは、カーター政権の1977年に施行された。

やはり保守のロバーツ首席判事とバレット判事も、この文言から、包括的な関税措置が認められていると解釈することに疑問を示した。

「(政権側は)いかなる国からの、いかなる数量の、いかなる商品について、いかなる期間でも関税を課す権限が(大統領には)あるという。これは大きな権限であり、(政権側の)主張する根拠とは不釣り合いに思われる」と、ロバーツは指摘した。

リベラルのケーガン判事は、IEEPAには「多くの動詞が含まれているが、(包括的な関税を課すのに)必要な動詞がない」と切り捨てた。

最高裁は、トランプ関税が違憲と判断された場合の救済策についても、政権側、原告側双方の意見を聞いた。原告側企業5社の代理人が、まずは原告が既に支払った関税の返還を受け、それ以外の関税については「非常に複雑なプロセス」になると説明すると、「つまり、大混乱だ」とバレットはまとめた。

実際、トランプ関税が違憲と判断されれば、アメリカも輸出国も、経済的および政治的混乱に見舞われるだろう。それでも、返還プロセスが複雑だからといって、トランプ関税が違憲であるという判断を妨げる理由にはならないと、原告側は念を押した。


最高裁は、この事案を「迅速」に処理する必要性を認めたものの、判決がいつになるかは明言しなかった。ただ、ちまたの賭け業者では、今回の口頭弁論後、トランプ政権に有利な判決が下される確率は50%から30%に下がった。

この裁判で問題になっているのは、トランプ関税の合憲性だけではない。拡大し続ける大統領の権限を司法がどう制限するかも問われている。それは、保守かリベラルかといったイデオロギーを超えた、最高裁の重要な役割だ。

The Conversation

Catherine Gascoigne, Macquarie Research Fellow in International Economic Law, Macquarie University

This article is republished from The Conversation under a Creative Commons license. Read the original article.

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