各生産システムのLC-GHG排出量
各生産システムのLC-GHG(ライフサイクル全体での温室効果ガス)排出量

この実証実験の契機となったのは、北海道網走市の福田農場での成功だ。畑地水稲栽培に取り組んでいた農場だが、穂に実が入らないという課題を抱えており、ビール酵母資材の使用によって再現性のある収穫が可能になった。

アサヒバイオサイクルが「ビール酵母資材」の研究を開始したのは2004年。2016年には長野県のレタス栽培で製品化、2017年には機能強化資材の販売を開始した。植物にポジティブなストレスを与えることで、根の活性、吸肥力、光合成促進といった生理活性を高める作用メカニズムを「X-RCS(クロス アール・シー・エス)」と命名している。

X-RCSが植物を活性化させる仕組み
X-RCSが植物を活性化させる仕組み

この技術は、国内だけでなく世界的にも持続可能な農業の推進力となり得るもので、マニュアル整備によって汎用性を高め、十分な収量確保を目指す取り組みも進行中だ。さらに今回の実証実験で、温室効果ガスの削減にも寄与することが分かった。

農業の常識を覆し、世界へ──持続可能な未来への展望

同社サステナビリティ事業本部アグリ事業部の担当部長、北川隆徳氏は、「これまでの農業の常識を覆すような提案をすることになるので、新たな考え方を受け入れてもらうのには骨が折れます。しかし、お客様の課題を解決できたときには大きな達成感を得られます」と語る。

栽培現場からも「ビール酵母資材のおかげでたくさん収穫できた」「ビール酵母資材がないと節水型乾田直播栽培は不可能だ」といった声も多く挙がっており、農家からの期待は大きい。

現在、アサヒバイオサイクルは農林水産省主導のタスクフォース「国内産輸出用米などの栽培技術のマニュアル化及び輸出可能性の検討・調査プロジェクト」において、中心的役割を果たしている。

また、海外展開にも注力している。食料問題の解決に挑むケニアでは「グローバル・サウスにおける食料自給率向上のための節水型乾田直播栽培プロジェクト」に参加し、ビール酵母資材の提供と社員派遣による技術支援を実施中だ。

さらに、ブラジルでは「劣化牧野回復モデル実証調査」に参画し、日本・ブラジル両政府や日本企業、ブラジルの日系農協と官民一体となり、現地の農業・畜産省などと協働して荒廃地の再生を目的とした実証調査を進めている。

ビール酵母細胞壁由来の農業資材は、土壌を還元化し有用菌優勢の微生物叢(そう)への変化を促す作用も確認されている。今後は作物の収穫量向上だけでなく、土壌の質的改善という点でも期待が高まっている。

アサヒバイオサイクルはこれまで積み上げた知見や現場経験を活かし、世界の食料・環境問題の解決に向けた挑戦を今後も続けていく。

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