<アメリカでは教員の「大卒」資格も不要に。情報の供給過多で知識の値段が急降下するなか、AIには習得できない「7つの能力」が大学の未来のカギを握る>

知識は希少であり、安くは手に入らない。この大前提が大学(の経営)を支えてきた。学生は高い授業料を払い、講義を聴き、試験にパスしてこそ望む学位を買い取れる。

つまり大学は①よそでは得られぬ知識(へのアクセス)を学生に与える一方、②そのために学生が多額の投資をした事実を(卒業証書の形で)雇用主に証明してきた。

このモデルが長年にわたって通用してきたのはなぜか。しかるべき知識には希少価値があり、従って値段(学生にとっては授業料、雇用主にとっては学歴に応じた上乗せ賃金)が高いのは当然だったからだ。

しかし、その前提は崩れた。知識の希少性は薄れ、その供給が飛躍的に増えて価格は下がり、大学の授業料や大卒者の給与水準には強い引き下げ圧力がかかっている。

コンサルティング会社のマッキンゼーは、生成AIの導入による生産性向上効果は世界全体で年間2.6兆〜4.4兆ドルと見込んでいる。

農産物であれ知的財産であれ、供給が増えれば価格が下がるのは経済学の常識。結果、大学が「知識」を高く売るのは困難になった。

時代の変化への対応は、大学よりも市場のほうが速い。チャットGPTが登場して以来、イギリスでは新卒者向けの求人が3割ほど減った。アメリカでは複数の州が、職員の採用に当たって「大卒」という資格要件を外している。賃金水準の見直しも進む。定型業務の多くは今やAIで代替できるからだ。

一方で、AIが人間の能力の補完にとどまるような分野もある。成文化できる形式知(税制や契約書のひな型など)は容易にAIで代替できるが、暗黙知(言葉で表現できず経験や判断が必要とされるスキル)ではAIも補完的な役割にとどまる。

未来はAIとの共存にあり

ノーベル経済学賞に輝いた認知心理学者のハーバート・サイモンに「情報の豊かさが注意力の貧困を生む」という名言がある。膨大な情報が手軽に入手できるようになると、人間の限られた認知力では選別・判断し切れず、結果的に注意力・集中力が低下するということだ。

その状況で求められるのは高度な注意力や的確な判断力、強い倫理性、創造性、協調性など、AIマシンがまだ習得できていない能力だろう。それぞれの英語の頭文字を取って並べると「CREATER」になる。すなわち、

C=クリティカルな思考(的確な問いを立て議論の弱点を見抜く力)
R=レジリエンスと順応性(状況が一変しても冷静に対応する力)
E=エモーショナルな知(他者を理解し、共感し、率いる力)
A=アカウンタビリティーと倫理性(困難な局面でも責任を取る力)
T=チームワークと協働(意見の異なる人と協力し合う力)
E=アントレプレナー(起業家)的創造性(問題に気付き新たな解決策を生み出す力)
R=リフレクションと生涯学習(好奇心を持ち、成長し続ける力)

──である。こうした能力こそ、今の時代にも希少価値を持つ。

そうであれば答えは明白。これからの大学は知識の伝達よりも判断力の育成に注力すべきだ。言い換えればAIを賢く使い、AIと共に思考するスキルの伝授である。

The Conversation

Patrick Dodd, Professional Teaching Fellow, Business School, University of Auckland, Waipapa Taumata Rau

This article is republished from The Conversation under a Creative Commons license. Read the original article.

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