「シェイク(師)」の尊称を持つその男性、アブドル・アーティー師に話を聞くことができた。穏やかな語り口の彼の声が、クルアーンの話になると突如として力強さを帯びた。
「クルアーンは私にとって、まるで目の光のようなものです。目が見えない私でも、クルアーンの朗誦から得られる力によって、すべてが見えてくるのです」
イスラーム教徒にとってクルアーンは神の言葉とされ、行動規範、道徳規範、儀礼的規範、法的規範などが含まれている。そして、結婚式はもちろんのこと、学校の朝礼で朗誦されることも決してまれではない。テレビやラジオの放送開始前と終了後にはクルアーンが流れ、クルアーン専門のチャンネルすらあるのだ。そうした放送では無論、最も美しい声を持つムクレッが誦するのだが、アブドル・アーティー師もエジプト国営放送から朗誦を依頼される特別な声の持ち主なのである。カフェの店員の1人は言う。
「アブドル・アーティー師の朗誦は、クルアーンの文言が心に響き、たいへんな癒し効果があるのです」
これに対して、アブドル・アーティー師は慎み深く語る。
「現代の煩わしい社会を生きる私たちに、生活の規範、そして人間のあるべき姿を諭してくれるクルアーンの言葉。私はそれを伝え続けていきたい」
今日もまた、エジプトのどこかで、アブドル・アーティー師の清らかな声が多くの人々の心を癒していることだろう。

2026年4月21号(4月14日発売)は「台湾有事の新シナリオ」特集。
米・イラン戦争で変わる地域紛争の「大前提」/石油危機を恐れるべき理由
※バックナンバーが読み放題となる 定期購読はこちら
※画像をクリックするとアマゾンに飛びます