存在しているのは物価高が加速しているという現実

一体、トランプの政治的洞察力はどこに行ってしまったのか。物価に対する世論の関心を軽視しても問題ないと考えたのだろうか。

4月第1週の大規模関税発表以前から、彼の経済運営に関する支持率は低迷していた。消費者たちは依然として物価の高騰とインフレに不安を抱いていた。多くの人々は、トランプが高騰する物価を抑え、かつてのように安価な卵を食卓に並べてくれると信じていた。経済政策こそがトランプが最も支持された部分だからだ。

それにもかかわらず、トランプは物価高騰やインフレの解消とは真逆の行動を取った。

トランプは何を考えていたのだろうか。自分が皇帝であり、間違いを犯すことなどないと考えていたのか。経済運営に対する国民の評価が下がることはないと思い込んでいたのか。国民は生活費の高さよりも他の課題を重視すると踏んでいたのか。

ほぼ完全雇用の状況にあって、関税によって年間数千ドルの追加負担が生じようとも、国民は製造業雇用の創出という遠い将来の可能性のほうを重要視すると考えたのか。

あの称賛された政治的洞察力は一体どこへ行ってしまったのか。

トランプにはもう、政治的洞察力はない。トランプは「異なる世界線」を創り出し、現実とは違う世界を妄想することを好む。しかし、消費者物価の高さが家計を直撃しているという現実こそ、MAGA支持層を含め、アメリカ国民が否応なく直面しなければならない現実だ。

これからトランプ関税が物価高をもたらし、それを前政権に責任転嫁できなくなったとき、皇帝が裸であるという事実が痛ましいほど明らかになるだろう。いや、すでにその皇帝に政治的洞察力などないのは明らかなのだが。

[筆者]
トム・ロジャース(Tom Rogers)

クラウドAI関連企業Claigridの会長であり、米Newsweekの編集幹部。CNBCの創設者、コメンテーター。MSNBCを設立し、TiVoの元CEOでもある。アメリカの民主主義を守ることを目的とした団体「Keep Our Republic」のメンバーであり、アメリカ法曹協会の民主主義に関するタスクフォースのメンバーでもある。

(本稿で示された見解は筆者個人によるものです)

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