その後の展開は予想をはるかに上回る事態を引き起こしました。

私の予想:

◎ メディアに取り上げられるだろう

◎ 社会的な関心を集めるだろう

◎ 世の中を動かしている世代に訴求できるだろう

私は無名の市井の人でした。メディアへの売り込みも一切行いませんでした。それでも「伊達直人」からの寄付はニュースとして取り上げられると思っていました。メディアの反応は予想通りのものでした。

群馬県の児童相談所は県の管轄機関です。ということは、職員は群馬県の職員です。施設の所長や幹部職員は50代で、まさにタイガーマスク世代です。彼らが「伊達直人」の名前を目にすれば、瞬時にその意味を理解してくれると思いました。「これは伊達直人の思いを代弁した贈り物ではないか」と。

県職員がどう判断するかは、この計画にとってはとても重要なことでした。通常なら不審な包みは遺失物として処理されてしまったかもしれません。でも彼らはそれを贈り物として受け止めてくれたわけです。

その後の展開は、すでにあったシステムをうまく活用できました。県庁など役所には記者クラブがあります。記者クラブにはメディアの方々が詰めていて、常に情報を収集しています。県庁がこの出来事をメディアに発表することで、伊達直人のニュースはすぐに広がっていきました。

さらに、2010年という年にも意味がありました。2010年、この年は寅年でした。寅年に現れた『タイガーマスク』の伊達直人。これも計算に入れての計画でした。当時の人気情報番組だった「ズームイン‼SUPER」(日本テレビ系列)で、羽鳥慎一アナウンサーが「今年は寅年ですが、寅にちなんだ贈り物が届きました」とニュースの冒頭で紹介してくださいました。

この「伊達直人作戦」で私が戦略として意識したことは次のとおりです。

◎ 決裁権を持つ世代への的確なアプローチ=ターゲティング

◎ 行政機関の記者クラブという既存システムの活用=PR

◎ 寅年のクリスマスという時期の選択=タイミング

◎ 物語性のある展開=ブランディング

そして、「伊達直人作戦」が引き起こした予想外の反響とは次のようなものでした。

私の予想を超えた反響:

◎ 各地に「伊達直人」やヒーローの名を借りた匿名の支援者が出現

◎ 全国規模の社会現象に発展=タイガーマスク運動(タイガーマスク現象)

◎ 新たな支援活動につながる社会的インパクト

こうした予想外の展開こそが、社会が抱えていた潜在的なニーズ(課題)であり、人が誰しも持っている善意の表れだったのかもしれません。

ある程度は戦略的に展開したことでしたが、その時点ではこのプロジェクトが全国規模の社会現象になり、各地で「伊達直人」「タイガーマスク」「仮面ライダー」などの名を借りた支援の輪が広がっていくことになるとは、予測できていませんでした。

支援の輪はやがて「タイガーマスク運動」と呼ばれるようになりました。計算された部分と、自然発生的に広がった部分が組み合わさったことで、大きな社会運動へと発展していったのだと思っています。

■ 河村正剛(かわむら・まさたけ)

社会現象となった『タイガーマスク運動』の発端となった人物。自身が孤児として育ち、16歳から一人暮らしをしながら高校に通う。自動車整備会社勤務を経て営業職としてカラオケ機材大手に就職。24歳から児童養護施設への寄付を開始。2010年クリスマスに前橋市の児童相談所にランドセルを贈り話題となる。現在は行政や民間企業と協力し、児童養護施設やひとり親などの支援などを続けている。

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