割れ窓理論が、心理的に「入りやすく見えにくい場所」を重視するのは、「悪のスパイラル」「悪のエスカレーション」というメカニズムを前提にしているからだ。それは、公共空間の乱れやほころびといった「小さな悪」が、いつの間にか、犯罪という「大きな悪」を生み出してしまう心理メカニズムのことである。

「小さな悪」が放置されていると、人々の罪悪感が弱まり、その結果、「小さな悪」がはびこるようになり、そのことが、犯罪が成功しそうな雰囲気を醸し出し、凶悪犯罪という「大きな悪」を生み出すのだ。したがって、落書きや散乱ゴミなどの「小さな悪」を見かけたら、見て見ぬ振りをせず、きちんと対応することが必要である。そうすれば、人々の罪悪感の低下を防ぎ、犯罪が成功しそうな雰囲気を漂わせないこともできる。

広島、栃木の事件現場にもシグナルが

事件現場の中にも、割れ窓理論が重視する、心理的に「入りやすく見えにくい場所」に該当する場所がある。冒頭で触れた広島と栃木で起きた女児殺害事件は、その典型例だ。

広島市で起きた女児殺害事件の発生場所には落書きと散乱ゴミがあった。例えば、近くの壁には落書きが書かれ、女児の死体が遺棄された空き地には、おびただしいゴミが捨てられていた。

より鮮明に割れ窓理論の特徴を示しているのが、今市市で起きた女児殺害事件の発生場所だ。連れ去り地点は特定されていないが、地区レベルから現場を見ると、そこには、落書きや不法投棄された粗大ゴミなど、心理的に「入りやすく見えにくい場所」だと犯罪者に思わせてしまうシグナルがあった。

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栃木県今市市(現:日光市)の事件発生場所周辺の様子(以下、すべての写真を筆者が撮影)
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例えば、被害女児が登下校の近道として利用していたと報じられた通学路沿いの宅地分譲地には、自動車、パソコン、冷蔵庫、自転車、タイヤ、洗濯機などが不法投棄されていた。分譲後に開発が放棄されたため、人家はなく、荒れ放題だったのだ。また、通学路付近の高速道路をくぐるトンネルの壁面には落書きがあった。もちろん、トンネルは物理的に「見えにくい場所」でもある。

このように、広島と栃木で起きた女児殺害事件は、地域社会の無秩序が犯罪を誘発する可能性を浮き彫りにした。ゆめゆめ、地域の乱れやほころびといった「小さな悪」に無関心にならないよう気をつけたいものだ。

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