<「なぜあの人が?」というアプローチは、犯罪者の改善更生の分野では有効だが、犯罪を事前に防ぐためのヒントにはなりにくい。連れ去り事件を防ぐには「場所で守る」発想が必要だ>

夏休みになると思い出される事件がある。今から34年前の8月に発生し、世間を震撼させた「宮﨑勤事件」だ。シリアルキラー(連続殺人犯)が、埼玉と東京で4人の子どもを相次いで誘拐し殺害したのだ。

この事件自体は、すでに死刑が執行されているので、風化したかもしれない。しかし、依然として、事件から学ぶべき点は多い。なぜなら、今も起きている誘拐殺害事件の犯行パターンが、宮﨑勤事件とほとんど同じだからだ。

誘拐のパターンが変わらないのに、なぜ事件を防げないのか。

それは、宮﨑勤事件のときに、「ボタンの掛け違い」が起きてしまい、その結果、防犯に有効な「犯罪機会論」が、いまだに普及していないからだ。

アメリカの作家マーク・トウェインは、「人がトラブルに巻き込まれるのは知らないからではない。知っていると思い込んでいるからである」と語ったという。まさにそうしたことが、防犯対策で起きている。ほとんどの人は、犯罪について「知っている」と思い込んでいるのだ。

犯行動機は外から見えない

事件当時、マスコミはこぞって、宮﨑勤の「性格の異常性」に注目した。「多重人格ではないか」といった報道もなされた。「オタク」という言葉も、事件がきっかけで、ネガティブなイメージとして広まった。

マスコミのように、「なぜあの人が?」というアプローチを取る立場を、犯罪学では「犯罪原因論」と呼んでいる。この立場は、犯罪者の改善更生の分野では有効である。だからといって、犯罪をしそうな人をあらかじめ発見できるわけではない。犯行動機は外からは見えないからだ。

ところが、宮﨑勤事件以降、まるで「動機は犯行前に見える」と言わんばかりに、「不審者」という言葉が多用されるようになった。しかし、「不審者に気をつけて」という方法では、34年経った今でも、宮﨑勤事件は防げない。

対照的に、「犯罪機会論」は「なぜここで?」というアプローチを取る。研究の結果、犯罪が起きやすいのは「入りやすく見えにくい場所」であることが、すでに分かっている。

子どもの誘拐事件は、基本的に、物色→接触→連れ去りという3つの段階から成るが、犯罪者にとって、「入りやすく見えにくい場所」は、一連の行為が問題なくできる場所なのだ。

最初の現場は歩道橋