乱暴に言えば、かつての日本メーカーは「機能重視、デザイン軽視」だった。その後、アップルなど海外メーカーの製品が日本でも支持を得て、デザインの持つ力を多くの消費者が認識するようになった。しかし、「デザインとは何か?」と問われて答えられる人は、今でも多くないだろう。美しさ、だろうか。
デザインのことは、デザイナーに任せておけばいい――仕事の現場でそう考えている人は少なくないはずだ。しかし、「デザインというツールは、もはやデザイナーだけのものではない」と、デザイナーであり、京都造形芸術大学大学院でSDI(ソーシャルデザイン・インスティチュート)の所長を務める村田智明氏は言う。
村田氏は、人の行動に着目し、改善点を見つけてより良く、美しくしていくための手法として「行為のデザイン」を提唱している。どういうことかと言うと、例えば会議室のような広い部屋に必要なのは、美しいスイッチ盤ではなく、暗闇で照明をつけようとしたときに、どのスイッチが天井のどの照明と対応しているか迷わなくて済むようなスイッチ盤だ。あるいは、ショッピングセンターや駅の構内に必要なのは、「上に上がろう」と思って近づいたら「下り」だったという失敗をしないで済むような、遠目でもどちらの方向に動いているかがわかる視認性が高いエスカレーターだ。
ここでは、本書の「第1章 行為のデザインは、開発力を加速させる」から一部を抜粋し、前後半に分けて掲載する。
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※抜粋第1回:不都合や不便を感じるデザインでは、もう生き残れない はこちら
足りないのは時間軸でたどる視点
止まっていようと動いていようと、行為には必ず時間がともないます。「行為は時間」だと思ってもよいほどです。
行為のその先には目的があり、目的を果たすために私たちはさまざまな手段を講じています。「言われたことを忘れない」という目的があれば、スマホのスケジュールに書き込む、あるいは手帳にペンで書き込むなど異なった手段が存在し、どちらも目的を達成することができます。その際にユーザーは何かにつまずいたり迷ったり、達成して喜んだりします。
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もし混乱して振り出しに戻るようでは、その行為は美しくありません。また、行為の停止があると目的を果たせず、ユーザーにとっては時間の浪費です。できるだけ避けたい事態なのです。プロダクトやUIをデザインする場合、そんなユーザーの時間軸を考慮してデザインに組み込む必要があります。
私たちはモノを買うとき、棚に置かれている状態だけで良し悪しを判断することが多いかと思います。
たとえばお店で見つけたソファが格好よくて買ったけれど、自分の部屋に置いたら全然合わなかったという経験はありませんか。それはプロにライティングされ、コーディネートされた空間の中で、止まっていたプロダクトを見て判断したからです。その瞬間は美しく価値がありましたが、自分が実際に生活する場ではマッチせず、価値が発揮されなかったといえます。これはモノを止まっている姿・瞬間だけで捉えた結果です。自分の普段の行為の中でモノを動かしてみる、つまりシミュレーションしてみる想像力があれば、防げるはずのものです。
実は、私たちはプロダクトを開発するときも同じ失敗をしています。つい、使っていない状態の造形美や、店頭で並んだときの見栄えや他社商品との差異を気にしていないでしょうか。本当はユーザーが手段としてプロダクトを利用するときの反応こそ重要なはずなのに、それは次候補になっているのです。