簡潔だが明確に国家経営に挑む姿勢を示す

小泉候補は、懸念されていた総裁選中の言動で大きな失点があったという訳ではない。しかし、記者会見・質疑応答で原稿を読み上げる様子に注目が集まり、首相になった後の予算委員会審議を乗り切れるのかを不安視する声もあがった。外国人・移民問題をはじめとする「保守支持層が抱いている現在の懸念」に正面から答えたとも言いがたい。無難な中庸的政策イメージの構築に専念したためだろうか、メッセージは曖昧のまま終わった。ニコニコ動画向けのステマ騒動や、神奈川県連における党員離党問題が大きな騒ぎとなって、勢いが削がれた点も否めない。

これに対して、高市候補は、告示日初日の立会演説会でいきなり、大伴家持の「高円の秋野の上の朝霧に妻呼ぶ雄鹿出で立つらむか」という和歌を詠み上げ、「奈良のシカを蹴り上げるとんでもない外国人がいる」と断言することから選挙戦を始めた。

衝撃を受け、不安を感じた者もいただろう。しかし、SNSの世界では「奈良のシカを外国人が蹴ったり殴りつけていたりする動画」は定番でもある。シカを「神の使い」として神聖視することのない外国人の乱暴狼藉を叱責して回っていた「へずまりゅう」氏は7月の奈良市議会選挙で当選を果たした。SNSを狙ったメッセージはこれ以上にないほどに明確であった。

高市候補は選挙期間中、憲法改正、男系皇統維持、スパイ防止法制定等については明確に賛成の意向を表明する一方で、消費減税を含めた経済政策等は、慎重な物言いに徹する姿勢も貫いた。強硬保守像をマイルド化させる、巧みな主張の取捨選択が支持を広げたと言える。決選投票直前の最終演説は、簡潔だが明確に国家経営に挑む姿勢を述べたものであり、前回のグダグダ演説とは雲泥の差の出来だった。

高市新総裁は今後、国会での首班指名選挙に向けて、国民民主党をはじめとする野党との連立交渉や党内人事に着手する。これまでになく女性政治家が重用されれば自民党の政治文化も変容するであろう。大所帯であった小泉陣営をはじめとする対立陣営を相手にした党内融和は簡単ではないが、悠長なことは言っていられない。27日にはトランプ大統領が訪日する。党内きっての勉強家である高市氏が実際に、どれだけ「自民党の背骨」を入れ直し、日本政治を再生できるかが問われる秋となるだろう。

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