ベラルーシ国境から、或いはロシアが不法に併合したクリミアから、ロシアの装甲部隊が正々堂々と越境する映像をCNNで観て、私は「これは夢か」とわが目を疑った。しかし現実なのである。世界中の人々が、或いは私という局所的な存在が信じていた世界は、昨日の正午粉みじんに飛び散って終わった。
「はい、これで平和が達成され、世界は元の秩序に戻りました」という大団円時代はやってこないだろう。世界は再び、力と力が奇妙に均衡するどころか、武力によって、しかも適当な開戦理由をでっちあげて他国を侵略できるという時代に逆戻りした。第二次大戦後のこの77年間はなんだったのだろうか。それは後世の歴史家から「(大国同士の戦争という意味においては)大いなる戦間期であった」と評されるのだろうか。この原稿を書いている2022年2月25日午後3時、ロシアの機甲部隊はキエフを占領せんとして攻撃を仕掛け始めている。残念ながらどう考えてもキエフは落ちるだろう。
ただひたすら、ただ率直に、虚無と徒労を感じる。破滅と絶望を感じる。「明けない夜は無い」とか、「明日があるさ」とか、もうそんな美辞麗句すら全く信じられなくなった。漆黒の永い夜は、いま始まったのだから。