「台湾」で譲歩を引き出すための交渉術

中国側が取ったこの一連の行動のタイミングからすれば、その時の習主席が強く意識していたのはおそらく、4月16日に予定されている日米首脳会談だったのではないかと私は思う。

4月16日に行われた日米首脳会談の議題と共同文書の中身の一部は、4月初旬の早い段階ですでに米中両国の報道によって明らかにされていた。その中でも、首脳会談と共同声明が「台湾」に言及することが注目されていた。

もちろん中国政府がそれを知らないわけはない。しかし、「祖国統一」という大義名分の下、台湾併合を至上命題の一つとして取り込む習近平政権にとって、日米同盟が台湾防備を視野に入れるのはまさに悪夢で、何としても阻止しなければならない。中国側からすれば、バイデン政権下での初めて会う日米首脳が「台湾」を議題にすれば、まさに日米同盟が台湾防備に踏み出す第一歩となる。

この重大な意味を持つ日米の動きを阻止するために、中国の王毅外相は4月5日、日本の茂木敏充外相に1時間半の長電話をかけ、日本側を強く牽制した。その中では王外相は自ら台湾問題を持ち出して、「それは中国の内政問題だ」と強調した上で、「内政に干渉するな」「手を伸ばしすぎるな」と強い口調で日本に警告した。

日本に対してはこのように露骨な恫喝ができても、もう一方のアメリカに対してさすがに同じことはできない。バイデン政権に働きかけて「台湾言及」を断念させるのには、もっと手の込んだ交渉術が必要となってくる。おそらく、まさにそれがために習主席は、ケリー特使を上海に招き入れながら、独仏首脳と同じ気候変動問題を語り合うという大芝居を打ってみせたのであろう。「日本を糾合して台湾に触れるなら、気候変動問題でいっさい協力しない」というのが、習主席がバイデン大統領に送ったメッセージだったはずだ。

結果的に習主席の目論見は失敗に終わった。日米首脳会談とその後の共同文書は半世紀ぶりに「台湾」に言及し、「台湾海峡の平和と安定の重要性」を明記した。日米同盟は中国による台湾の武力併合を許さないという姿勢を鮮明にしたのである。

意外過ぎる中国の弱々しい反応

しかし意外なことに、「虎の尾」を思い切って踏んだはずの日米両国のこの歴史的動きに対し、中国側の示した反応は実に控えめで弱々しいものだった。本稿を書いている4月22日現在、中国政府はさまざまな場面で、日米の「台湾」言及に予想の範囲内の反発と批判を行なっているものの、これといった激しい反応は示さず、対抗措置を取るにも至っていない。

それどころか、中国外務省の楽玉成副大臣は4月16日、AP通信のインタビュー取材で「米中は敵ではない。米中は手を携えて互いに協力すべきだ」と語り、バイデン政権に関係改善の秋波さえ送っているのである。

そして台湾に対しても、日米首脳会談直前の4月12日には史上最多の中国軍機が台湾の防空識別圏に侵入したが、日米首脳会談の後はこのような動きがぴたりと止まっている。少なくとも4月22日の段階で、中国はかなりおとなしくなっているように見える。

その理由はどこにあるのか。

「簡単に対抗できない」と悟った習政権