こうした反応は市民レベルだけでなく、政府レベルでも同様だ。アメリカでは2001年以降、FBI などによるムスリム系市民や政治活動への監視が増え、違法な電話盗聴などが行われることも珍しくなかった。

こうした公式、非公式の差別は、ムスリムに対するヘイトクライムの温床になってきたのである。

差別か、治安対策か

ムスリムへの差別と偏見は、結果的にアメリカの安全をさらに脅かすことになった。差別や偏見にムスリムが反感と疎外感を募らせ、これがアメリカ内外でイスラム過激派のさらなるテロを生む悪循環に陥ったからだ。

2013年に発生したボストン・マラソン爆破テロ事件や、2014年に「建国」を宣言した「イスラム国(IS)」に数多くのアメリカ人が参加したことは、その象徴である。

このようにアメリカ社会に疑心暗鬼と相互不信が渦巻く状況は、アフガンやイラクから撤退しても、急に大きく変化するとはいえない。

そのうえ、ムスリムへの差別はムスリム以外のアメリカ人の分断も加速させてきた。

先述のように、「イスラムは他の宗教より暴力的」という見方の平均値は50%だったが、このうち民主党支持者だけの平均が32%だったのに対して、共和党支持者のそれは72%にのぼった(PRC)。また、共和党支持者にテロ対策を優先させる傾向が強いのに対して、民主党支持者にはテロ対策の名の下に市民の権利が無制限に制約されることへの拒絶反応が強い。

つまり、対テロ戦争が長引くにつれ、アメリカ人のなかで党派的な分裂が深まったのであり、この分裂は黒人の権利運動BLMやアジア系ヘイトへの反応にも結びついてきた。そうしたなか、立場の異なる者がお互いを理解しようともしない風潮も広がった。

要するに、9.11の衝撃はアメリカの内部対立を加熱させ、一体性を失わせてきたといえる。

「アフガンで我々は失敗した」

そしてもう一つ、ビンラディンの呪いと呼べるのが、アメリカ人の政府に対する信頼を引き下げたことだ。

対テロ戦争の20年間の歴史が示しているのは、神出鬼没のテロ組織を軍事力だけで根絶するのが極めて困難ということだ。

しかし、9.11に見舞われ、国民の多くが心理的恐慌に陥っていた当時のアメリカでは、この不可能が可能と思われた。実際、9.11直後の調査で「アメリカの軍事力はテロ・ネットワークを破壊できると確信している」という回答は76%にのぼり、「アフガンで軍事活動を行なうことに賛成」は83%にものぼった(PRC)。

ところが、実際にはそううまくはいかなかった。今年8月の段階で、アメリカ人の69%は「アフガンでの目標をほとんど達成できなかった」と考えている。

信用できない政府

「できるはず」と思っていた時ほど、できなかった場合のストレスは大きい。一時的に高揚した愛国心のもと、楽観的な見通しでスタートしながら、アフガンやイラクで戦闘が泥沼化し、出口が見えなくなるなか、アメリカは厭戦ムードに覆われた。

「偉大な国」としての誇りを失う
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