つまり、リーマンショックという世界経済の危機を前にG7だけでは対応できず、それまでより幅広い協力の枠組みを必要とするなかでG20は生まれたのであり、その誕生そのものが先進国の影響力が衰えつつあることの象徴だったともいえる。

しかし、リーマンショック後の危機的な状況が遠のき、さらにクリミア危機(2014)や南シナ海領有問題など安全保障上の対立が激化したこともあり、その後のG20ではメンバー同士の不和が表面化した。

西側先進国として政治的な立場も近く、経済水準も似た国が集まるG7と異なり、G20には様々な立場の国が集まることは、意見の食い違いを目立たせてきたといえる。

緩やかな方向性

もともとまとまりにくいうえ、「新冷戦」とまで呼ばれる緊張が高まるなか、G20で意見の不一致が目立つことは不思議ではない。そのため、目をむくような斬新な決定や世の中を大きく転換する劇的な合意はほぼあり得ない。

しかし、それでもG20には、他ではみられない役割が大きく二つあげられる。第一に、世界全体の緩やかな方向性を指し示すことだ。

メンバー同士の利害の不一致が目立つため、逆にあまり注目されないが、世界全体のGDPの約80パーセントを占める各国が集まるG20は、これまでも世界全体の方向性を指し示してきた。

例えば、昨年のブエノスアイレス・サミットでは、労働の正規化を含む雇用の安定、教育の拡充によるイノベーションの享受、デジタル経済のビジネスモデルの導入に関する共有、女性起業家の支援など、30項目におよぶ事項を確認した。大阪サミットでは、人工知能(AI)活用やプラスチックごみ廃棄などに関する国際ルール作りなども論点になる。

これらはいずれも総論で、いわば緩やかな共通目標に過ぎず、強制力は乏しい。実効性の低さは「新冷戦」と呼ばれるほど関係が悪化しているなかではやむを得ないが、かつての冷戦期と異なり、政治的に対立している国同士でも貿易、投資、ヒトの移動が絶えない現在の世界をみれば、合意しやすいところから合意を積み重ねることは無駄ではない。

相手と会うこと自体の重要性

第二に、常日頃対立している各国の首脳が顔を合わせる機会を確保することだ。

現代の世界では、ナショナリズムに傾いた世論に配慮して、外交官が対立を抱える国の担当者と接触することさえ慎重になりやすい。対立する国同士がともすれば疎遠になりやすいだけでなく、二国間での協議はかえって対立を先鋭化させかねない。

その一方で、例えばアメリカと中国が定期的に直接接触する多国間の枠組みは必ずしも多くない。その他の対立を抱える国にしても同じである。

G20はその場を提供する数少ない機会の一つだ。つまり、主要国が一堂に会するG20は、関係が悪化している相手と問題を処理する糸口を提供するものといえる。

トランプ大統領と習近平国家主席はG20サミットの期間中に会談し、5月に事実上決裂した貿易協議を再開した。

こうしてみたとき、スピードや効率が重視される現代にあって、その効能はみえにくいかもしれないが、G20は国際関係の激変を抑える役割を担っている。言い換えると、G20はそれがなければなお一層分裂しかねない各国をつなぎとめるイカリといえるだろう。

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