4つのシナリオ

こうした政党間の駆け引きが、国民・有権者のレベルでどう作用するかはまったく予想できないが、理論的には4つのシナリオが考えられる。

第1のシナリオは、国民連合が第1党となり過半数を制するというケースだ。

この場合、冒頭で述べたように、マクロン大統領の下で国民連合のバルデラ党首が首相に就き、中道と「極右」の野合政権が誕生する。

第2のシナリオは、国民連合が第1党となるが、過半数を制することはできず、相対多数派にとどまるというケースだ。この場合、バルデラ党首は首相を引き受けることはないと公言しているので、マクロン大統領は代わりに誰を任命するかが大問題となる。

第3のシナリオは、左翼連合が第1党となるが、過半数を制することはできず、相対多数派にとどまるというケースだ(過半数を制することは、おそらくないであろう)。

この場合、考えられる首相候補は、左翼連合の最大の実力者である急進派のメランションであるが、左翼連合の中には分裂していた時のしこりが残っていて、メランションに対する反発も大きいので、「メランション首相」ではまとまらず、誰か別の政治家を任命することにならざるを得ないだろうが、その選考の過程で左翼連合の内部分裂を再び惹起して、政治的混乱をもたらす可能性がある。

第4のシナリオは、マクロン与党が第1党となるが、過半数を制することはできず、相対多数派にとどまるというケースだ(過半数を制することは、おそらくないであろう)。

このケースは、結局、解散前の議会下院の構成と同じで、今のアタル首相が引き続き首相を務めるということになる。

最大級の政治危機の瀬戸際

第1のシナリオは、マクロン大統領にとって最悪のシナリオだが、可能性は排除されない。

その場合、水と油の間柄で、基本的政策においてまったく相容れない関係にあるマクロン大統領とバルデラ首相が、どのような政権運営を行っていくのかまったく不明であるが、過去の野合政権(コアビタシオン)の時をはるかに上回る、壮絶な権限争いと深刻な政治対立が起きることは間違いない。その結果、大統領の辞任か、1年後に再解散総選挙となる可能性がある。

第4のシナリオは逆に、マクロン大統領にとって最善のシナリオだが、現状維持に過ぎないので、何のために選挙をやったのかということになり、マクロン大統領のレームダック状態はいよいよ決定的になる。

第2のシナリオと第3のシナリオの場合は、マクロン大統領と各党との間で、首相を誰にするかで権謀術数の政争が繰り広げられ、政治的混乱が深まる可能性が高い。

フランスは、第5共和政下で最大級の政治危機を迎えるかいなかの瀬戸際に立たされている。

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