横溝正史、江戸川乱歩...... 日本の本格推理小説、英米で静かなブーム

2021年5月11日(火)17時00分
青葉やまと

<日本の本格ミステリが海を越えて出版され、緻密なトリックと構成が話題を呼んでいる>

絶海の孤島に招かれたメンバーが、夜ごと凶刃に消えてゆく。現場の個室は内側から施錠されており、犯行はいかなる者にも不可能。しかし、室内の不自然な状況と被害者が残した不可解なメッセージに、狡猾な真犯人を暴く手がかりが隠れており......。

こんな謎めいた状況で夢中にさせてくれる日本の本格推理小説が、海外で静かなブームを生んでいる。とくにイギリスではこのところ、旧書を翻訳して再刊行する流れが活発化しており、日本の名作ミステリもこの動きにうまく乗ったようだ。驚きとドラマ性を重視する近年の海外ミステリとはまた違った趣きが受けているのだという。

その一つが、1947年刊行の横溝正史作品、『本陣殺人事件』だ。宿場町で代々要人を迎えてきた歴史ある本陣に、琴の音色とともに異様な悲鳴が響く。離れで発見されたのは、新郎新婦の無惨な血まみれの死体。雪の現場周辺に足跡はなく、完全な密室状況だが......。

本作は、かの名探偵・金田一耕助を世に送り出した名作だ。再出版ブームに乗る形で2019年にイギリスで翻訳され、『The Honjin Murders』のタイトルで出版された。実に72年の時を超えて再評価され、イギリスの書店に並んだ格好だ。

Honkaku小説は、緻密でまるでチェスのよう

本格推理小説の最大の特徴は、何といっても作者との真剣な知恵比べを楽しめる点にある。本格作品はいずれも、推理に必要な情報を読者に提示する「フェアプレイ」の精神を本分としている。重視されるのは突飛なサプライズではなく、手がかりとロジカルな推論だけで真実にたどり着くことができるソリッドな構成だ。

ガーディアン紙はその緻密な構成を、まるでチェスのようだと表現する。記事は「Honkaku小説は、予想外のひねりと思いがけない事実の暴露に満ちた現代のスリラーよりも、むしろチェスのゲームと通じる点が多い」と論じる。細心の注意を払ってフェアに書かれた本格ミステリは、探偵が真相を披露するシーンまでに、容疑者およびすべての手がかりが提示される。

その精緻な構成は、アメリカでも評判が良いようだ。米ワシントン・ポスト紙は昨年夏、「日本の密室ミステリは夏の息抜きに完璧」と題し、日本ミステリの紹介記事を掲載している。フェアに書かれた探偵小説はまるでチェスかクロスワード・パズルのように没頭させてくれると述べ、一読を勧める内容だ。とくに外出もままならない昨今の状況においては、室内で独りで興じられる最適な娯楽なのだという。

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