日本の新型コロナウイルス対策は評価できるか──中国を参考に

2020年3月13日(金)20時00分
三尾 幸吉郎(ニッセイ基礎研究所)

そして、武漢で封じ込めに失敗した中国政府は、"医療崩壊"が全国に波及しないよう湖北省(省都:武漢市)を"都市封鎖"するなどの強硬策を講じたため、新たに新型コロナ感染が確認された症例はまだ増えているものの、時間を経るにしたがって治療を終えて退院する人も増えてきたため、ここもと現存感染者数が減少し始めている(図表-4)。また、3月8日時点の重症症例は5,111名で、2月18日の11,977名のピークから半減、感染した疑いのある疑似症例は421名で2月8日の28,942名から69分の1に減少、経過観察中の濃厚接触者は20,146名で2月初旬の19万人前後から9分の1に減少した。そして、湖北省(省都:武漢市)以外の中国では、前述の推定病床占有率が0.01%まで低下しており、"医療崩壊"が全国に広がるのは回避できそうである(図表-3)。

3──日本政府が示した対策は正しいが、日本ならではの注意点も

以上のような中国での新型コロナ(COVID-19)の経験を踏まえて、日本政府は図表-5 2に示したように、「集団発生を防ぎ、医療対応の限界レベル以下に感染の拡大を抑制すべき段階」であると現状を認識した上で、2月25日には「新型コロナウイルス感染症対策の基本方針」を発表。26日には全国的なスポーツ・文化イベントの中止や延期を要請。27日には全国一斉の小中高校の臨時休校を要請し、29日には安倍首相が会見で国民に理解と協力を求めた。日本では既に全国的な「市中感染」の拡大が始まったとの現状認識に立つならば、筆者は「日本政府が打ち出した対策は大袈裟」なものでは決してなく、正しい判断だと考えている。

前述したような武漢における先行事例を見れば、日本の医療体制は中国よりも優れている3とはいえども、新型コロナウイルスの感染力は極めて強く、若年層は感染しても無発症だったり軽症だったりするため、自分は大丈夫だからと動き回り、最も注意すべき高齢者や基礎疾患を持つ人への感染を媒介する保菌者(キャリア)となって、あっという間に医療機関の対応能力を超えて"医療崩壊"に繋がりかねないからだ。しかし、日本政府が前述のようなややこしい説明を避けて、国民に理解しやすいようにとの忖度から、全国一斉の小中高校の臨時休校を要請した理由を、「子供の命と健康を守るため」という説明をしてしまうと、情報が自由に流通する自由主義の日本では、前述のように若年層の感染率は低く重症化するケースも少ないという情報との矛盾が生じて、「日本政府が打ち出した対策は大袈裟」だとの世論が形成されかねない。さらには、子供の小学校が臨時休校なので祖父母を呼び寄せて面倒をみてもらうという本末転倒なことにもなりかねず、せっかく日本政府が正しい判断をしても、その成果が十分に実現できない恐れがある。

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2 図表上の患者数を示すピンク色の線は、その形状から見て「感染症例(累計)」ではなく「現存の感染者数」だと考えられる。
3 経済協力開発機構(OECD)が公表したデータによれば、日本の病床数は住民千人当たり13.05床(2017年)、医師数は同じく2.43人(2016年)、看護師数は同じく11.34人(2016年)と、中国の病床数は住民千人当たり4.34床(2017年)、医師数は同じく2.01人(2017年)、看護師数は同じく2.7人(2017年)よりも充実している。

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