実践的な古武道にいつも新たな発見

2010年5月21日(金)12時04分
ウィリアム・アンダーヒル

 凍えるように寒いある12月の夜、アンナ・シーボーンは京都の街を見下ろす山に登った。竹内流古武道の師匠である聴風館道場の小野陽太郎館長と一対一で、居合いのけいこを行うためだ。「自然とのつながりを重視する竹内流では野外けいこも多い。でも寒さに耐え、自然との一体感を感じながら行ったけいこのことは、今でも鮮明に覚えている」

 1532年から続く竹内流は、柔道の源流とされる実践的な古武道。教えには武器の扱いだけでなく、縄で相手を縛り、風呂や食事で相手を油断させるものまである。「道場ではいつでも新しい発見があった」と、シーボーンは言う。

 こうして、当初6カ月の予定で95年に始まった彼女の日本滞在は12年間に延長された。小野館長によれば「竹内流の技は、それを編み出した人物や場面が名前になっているものも多い」。シーボーンはけいこ後の道場でそんな話を聞くたびに、武道としての由緒や歴史上の人物とのかかわりに思いをはせ、口癖の「スゴイ!」を連発して感激したという。

 シーボーンは現在、イギリスに帰国し、中部の都市リーズで教職に就いている。魅力を理解していない人に話しても変に思われるだけだから、生徒に対して武道への愛情を語ることはないと話す。

 だが、ひとたび授業が終われば、外国人として初めて弟子を取ることを許された「シーボーン・アンナ源人和」に変わる。自分の道場では、技術だけでなく日本文化や武道の心構えも教えている。「彼女は伝統を正しく伝えようとしている」と小野は称賛する。

 そのことを記者が伝えると、シーボーンは感慨深げにこう言った。「信じられませんが、私も竹内流の歴史の一部になったのですね」

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