ウクライナ「義勇兵」を各国がスルーする理由──「自国民の安全」だけか?

2022年3月7日(月)20時40分
六辻彰二

スペイン内戦の「義勇兵」は、若き日の文豪ヘミングウェイが参加したことがあまりに有名で、ナチス支援のフランコ将軍に対抗した「自由の戦士」のイメージが強い。しかし、「義勇兵」で編成された国際旅団は、もともと当時のヨーロッパ各国で冷遇されていた共産党を中心に発足したもので、総勢約6万にも及んだメンバーには失業者なども多くいた。

一方、シリア内戦では「イスラーム国」(IS)の「建国」宣言に合わせて世界中から約3万人が集まったが、最近の研究ではその多くが社会的孤立、貧困、差別といった問題を抱えていただけでなく、精神疾患や犯罪歴があったといわれる(彼らはISから給与を支給された)。

もっとも、ISの外国人戦闘員とウクライナ「義勇兵」を同列に扱えば非難されることはわかりきっている。

また、反体制派ISによるリクルートと、ウクライナ政府の呼びかけとでは、正当性が違うという主張もあり得る。

高まる反ロシア感情によるこうした反感や批判を招きやすいからこそ、各国政府は「義勇兵」に正面から反対できない。

ある国の政府が給与を支給して外国人に戦闘参加を呼びかけるのが正当かは疑わしく、それは国際法で禁じられる「傭兵」にあたる可能性があるが、こうした議論さえ現状ではできるはずもない。

第二のシリアになるか

しかし、その危険性も認識しているからこそ、先進国の政府はウクライナの「義勇兵」リクルートを事実上スルーしているといえる。

各国から「義勇兵」が集まれば、それがどんなイデオロギーの持ち主であれ、アゾフの勢力が増すウクライナ国防軍の指揮下に置かれる。それは結果的に、極右による多国籍の大軍団を生みかねない。

ウクライナに集まる外国人の危険性については、以前からすでに多くの専門家が指摘してきた。それは現地の戦闘を激化させるだけでなく、国外にまで影響を及ぼしかねないからだ。

欧米ではすでにイスラーム過激派によるものより、白人極右によるテロ事件の方が多くなっている。コロナ対策が厳しすぎると不満を募らせ、2020年にミシガン州知事の誘拐を試みたプラウド・ボーイズや、2021年に連邦議会議事堂を占拠したQ-Anon支持者をはじめ、現在の体制をひっくり返す「内戦」を主張する勢力も珍しくない。

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