「歴史の悪魔」を蘇らせるのはトランプ米大統領ではなく、世間知らずのマクロン仏大統領かもしれない

2018年11月13日(火)11時20分
木村正人

その理由は失業だ。EU官僚は域内の失業率は00年以降、最低の6.7%まで低下したと説明するかもしれない。しかし格差が広がる時代、「アベレージ(平均値)」を見ていては物事の核心を見誤る。最も弱い労働者に属する中卒・高卒の15~19歳の失業率ワースト5を地域別で見てみよう。

世界金融危機を境にイタリア南部カラブリア州、カンパニア州、シチリア島の失業率は急上昇している。失業率が83.1%に達しているカラブリア州では女性の失業率は90%を突破し、「大学院を卒業しても月300ユーロの新聞配達の仕事しかない」(パリに移住したイタリア人青年)という嘆き節が聞こえてくる。

かつてイタリア北部の独立を唱えていた反移民・反ユーロの欧州懐疑政党「同盟」書記長のマッテオ・サルビーニ副首相の人気が沸騰している。同盟の支持率は3月総選挙の得票率17.4%から35%近くまでハネ上がった。サルビーニ氏は来年5月の欧州議会選を念頭に「EUの国家主義的勢力が自分の欧州委員長就任を望んでいる」と豪語する。

マクロン大統領が主張するユーロ共同債発行というEUの政治同盟化が究極の解決策だが、それに賛成するEU加盟国は極めて少数派だ。メルケル首相の出身母体・キリスト教民主同盟(CDU)が反対に回るのは間違いない。欧州統合を強めれば強めるほど「歴史の亡霊」は大きくなってきた。

「歴史の悪魔」を封じ込めるのはマクロン大統領のいう「統合の深化」ではなく、単一通貨ユーロの再編をはじめとする「緩やかな統合」への大転換である。「メルケル後」のドイツが「緩やかな統合」に舵を切ることが「歴史の悪魔」という亡霊を打ち払い、英国のEU離脱を軟着陸させて欧州を蘇らせると筆者は信じて疑わない。

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