自律走行車でもドライブ中のスマホは禁止?

2013年7月20日(土)10時28分
瀧口範子

 ドライバーなしに運転する「自律走行車」が、現実的なものになっている。グーグルが開発した自走車グーグルカーはもっともよく知られているだろうが、従来の自動車メーカーもこぞって自走車を開発中だ。

 今週、スタンフォード大学でこの分野の開発者、研究者、行政関係者らが集まって、自走車のための法整備などを話し合う会議が開かれた。自走車と聞いても、いったいわれわれの生活にどう浸透してくるのか、いまひとつ実感がつかめなかったのだが、いろいろな側面が学べて随分ためになった。いくつか挙げてみよう。

 まず、自走車といってもいくつかのレベルに分かれている。レベル0から4までの5段階である。

 レベル0は、運転に際してドライバーがすべてを行うという、まったく自動化がされていない車。そして最高のレベル4は、運転、状況のモニタリングなどが、高速、低速などすべての運転モードにおいて自律的であること。その中間のレベルは、運転モードによって自律の度合いが異なっているとか、ところどこで人間ドライバーの判断と介入を必要とするなどの違いがある。

 現在、世の中に出回っている車は既にレベル0ではなくて、レベル1だ。これは随所で自動車側の助けを借りて運転しているというレベル。たとえば、最近はボタンひとつで並列駐車してくれる車もあるし、ブレーキを踏んだ時の緊急性を認識して、その効き具合を調整するようなシステムも以前からある。

 これを考えると、もう何年も前から、自動車は自走車に向かって発展してきたのがわかる。テスラなどの電気自動車になると、車の調子の悪いことまでメーカー側がモニターしていて、ドライバーに知らせてくれたりする。

 もっと高いレベル4は、ロボット・タクシーだという。誰にも属さない車が、町中をいろいろな人の注文を受けて自律的に走っているという風景を想像してほしい。また、自分の車であれば、自分が乗らずに車だけを目的地へ行かせることもできる。人を迎えにやったり、荷物を取りに行ったりを、車だけでやってくれるのだ。

 実はドライバーということばも、自走車時代には合わない。「オペレーター」と呼ぶのだそうだ。レベル3まではオペレーターが乗っているだろうが、レベル4になるとオペレーターは乗らずに完全自走できる。

 また、自走車には免許が必要か、という議論もある。自走車がぜんぶやってくれて自分で運転しないのだから、必要なわけはないだろうと言いたいところだが、自走車のしくみや安全走行に関する知識などを得るための何らかの訓練を受けることは必要になりそうだ。そして、その訓練を受けたという証書のようなものが制度化される可能性は高い。

 自走車に「乗る」という行為の解釈もおもしろい。自走車なのだから、まるで居間で過ごしているように、テレビを見たりお茶を飲んだりして目的地に着くまでくつろいでいればいいのだろうと思いがちだ。かねてより望んでいた運転中の電話やツイッターが思う存分できるとも思うが、どうもそうはいかないようだ。

 たとえ自走車であっても、ドライバーは運転状況に完全に無関心であってはいけない。技術の発展により、確かに安全運転はする。しかし事故の可能性はゼロではない。したがって、何らかの緊急時には車をストップさせられる態勢になくてはならないのだ。

 これは、心理学的にはけっこう大きな課題だそうである。つまり、こういう状況をわれわれは今まで経験したことがない。運転していないが、注意は怠ってはならないという、心理モデルがないのだ。何もすることがないので、眠くもなる。それも問題だ。したがって、自走車のメーカーは、この微妙な状態にドライバーを置きながら、決して退屈させないというしくみを考案しなくてはならないのだ。

 もちろん、この「乗る」というのはレベル4の完全自走車になるまでの話。完全自走車になれば、オペレーターが乗っていないということもあり得るのだから、こうした要素はレベルが進むにしたがって調整が必要となる。

 さて、万一事故が起こったら、それはいったい誰の責任になるだろうか。自走車のメーカーか、それともドライバーやオペレーターか。自走車なのだからメーカーの責任だろうと決めつけるのは早い。メーカーは、こうした全面的な賠償責任を避けるために、車をレンタル会社へリースして、サービスを提供するだけになるだろうという見方も出ている。つまり、製造業からサービス業主体にビジネスモデルを変える可能性もあるということだ。賠償責任をめぐる自動車保険はどう設定するのかという点と共に、この問題は今後おもしろい展開を見せることだろう。

 また、自走車を公共交通やトラックに導入することもあり得る。毎朝乗っているバスから、いずれ運転手がいなくなるかもしれないのだ。トラックでは、ドライバーが運転する先頭車の後に、何台もの自走トラックが隊列を組んで一緒に高速道路を走れば、速度を最適に保ってエネルギー節約ができ、また道路の密度を上げて運送の効率化が図れるといった実験結果もすでに出ているようだ。トラック間の通信システムによって安全性が確保されれば、後続車の運転手ならば、休息時間も取れる。

 課題はたくさんある。どこへ行った、車内で何をしていたかなど自走車が刻々と生み出すデータは誰のものか。それはどう使われるのか。また、社会に目を広げれば、自走車がレベル4に向けて発展するに従って、なくなってしまう職業は少なくない。タクシーやトラックの運転手、配達業者、駐車取り締まり担当者など。社会や経済の変化ももたらされるのだ。

 現在、いろいろな関係機関が規制をどう整備していくのかを話し合っているところだ。早くて2015年には、一般人が運転する自走車に関する何らかの具体的な決まりが見えてくる見込みだ。そして、どんなレベルの自走車がどれだけ早く浸透してくるのかは、実は技術よりも、この規制や社会の受容度に左右されるようだ。たとえばグーグルなどは、いきなり高いレベルの自走車を市場に投入したいと考え、またそしてそうする技術力もあるようだが、規制を作る側はもっとゆっくりと高いレベルへ上がっていくのが妥当と捉えている。

 いずれにしても、自走車はもう夢物語の段階を超えていることを実感した。

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