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経営学

長寿企業には「秘密」がある──日本に多く、中国・韓国に少ない理由

2023年05月10日(水)08時07分
竇 少杰(立命館大学経営学部講師)

今年3月に、『東アジアの家族企業と事業承継──その共通性と多様性』(共著、文眞堂)が刊行された。

本書は東アジアという家族文化や事業承継において多くの「似て非なる」が存在している面白い地域にフォーカスし、企業経営・家族経営・財産経営の3つの角度から、日本企業(2社)、中国本土企業(2社)・台湾企業(1社)・香港企業(1社)、韓国企業(2社)、全部で8社の事例を取り上げ、国際比較を通じてこの地域における特有の共通性と多様性について初歩的な考察を行っている。

未熟な考察ではあるが、「抛磚引玉(ほうせんいんぎょく)」して多くの方と議論を深めていきたい。

長寿企業の研究を行う際に、よく「伝統」と「革新」との関係を考える。なぜなら、長寿企業の多くは「伝統産業」に属しているか、「伝統」を大事にしているからだ。

「伝統」にはなんとなく「保守的」や「変わろうとしない」などの意味を持ち合わせているが、果たして長寿企業は本当に「保守的」なのか。

筆者の調査研究のなかにおいて、長寿企業の経営者から「伝統」についてよく以下の説明を聞く。すなわち「伝統とは革新の連続である」。つまり、長寿企業にとっての「伝統」は「保守的」や「変わろうとしない」ではなく、むしろ「革新し続ける」なのだ。

CMでもおなじみの「伊右衛門」は、もともとは寛政二年(1790年)京都で創業した福寿園のブランドである。

代々の当主は「無声呼人(徳のある人のところには、呼ばれなくとも人が集まるという意味)」という家訓を守りながら、製品のあり方や販売方式、市場開拓をしてきた。

現会長の福井正憲氏の口癖は「伝統とは革新の連続である」「二兎を追う経営」である。2004年誕生のサントリーのペットボトル入り緑茶飲料「伊右衛門」もその延長であろう。

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