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経済学に登場する定理や法則の中で、最もシンプルなものは何だろうか。筆者の頭に真っ先に思い浮かんだのが「需要法則」である。
「価格を上げると需要が減る」あるいは「価格を下げると需要が増える」ことを表すこの法則の中身は、どんな経済学の入門書でも必ず触れられている。しかも、非常に早い段階で扱われるトピックなので、初学者が最初に触れる経済学の知見と言ってもよいだろう。
本稿では、このシンプルな法則に対する誤解や批判をいくつか紹介し、それに答えながら需要法則の解釈や使い方について考えていきたい。
はじめに、みなさん自身の消費行動を少し振り返ってみて欲しい。ある商品の値段が高くなれば買い控え、安くなれば積極的に買うというのは納得できる行動パターンではないだろうか。多くの消費者が、市場においてこのパターン通りに行動すれば需要法則は成立する。
こう考えると、需要法則は「法則」というような仰々しい表現を必要としない、単なる常識だと思われる方もいるかもしれない。しかし、この常識がきちんと社会に広まっているかというと、そうとは言い切れないように筆者は感じる。たとえば、次のような言説を目にされたことはないだろうか。
この文章の前半部分は正しい。売上の計算式そのものだからである。問題は後半の「価格を上げれば売上は増える」という部分だ。需要法則に従えば、価格を上げると需要は減る。つまり、値上げに応じて販売量が通常は減少するはずである。販売量の減少に伴うマイナスを、単価の上昇というプラスが上回らない限り売上は増えない。
たとえば、ある商品の価格を10%上げることで販売量が20%減った場合には、売上はもとの88%(=1.1×0.8×100%)に縮小してしまう。なんと12%も売上が減ってしまうのである。このような状況では、値上げは売上アップには貢献しない、つまりAという言説は間違っていることが分かる。
ところが、売上が減る一方で利益は増える可能性がある。重要なポイントなので、少し本論からは脱線するが、販売企業が値上げを検討するべきかどうかという問題を考えてみたい。さきほどの状況で企業の目的が売上を増やすことであれば、もちろん値上げは避けなければいけない。10%の値上げによって売上が12%も減ってしまう、ということをまさに確認したばかりである。
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