コラム

中東をウイグル排除に追い込む、中国マネーとイスラム分断策

2017年09月02日(土)13時00分

歴史的対立を巧みに利用

中国は今、国内に2100万人前後のムスリムを抱えており、その大半がスンニ派だ。その中で回族とウイグル人は双方とも800万人以上の人口を有し、ほぼ拮抗している。中国語を母語とする回族に対して、ウイグル人は政府寄りだといつも不信の目を向けてきた。事実、19世紀末からムスリムたちが中国に大規模な反乱を起こした際も、回族はよく清朝政府側に立ってウイグル人と敵対した。

イランはエジプトやトルコと対立するシーア派の国家だが、ウイグル人と歴史的に緩やかな関係を結んできた。だが中国政府も回族にイラン留学を勧めており、いまイランに多く留学しているのはウイグル人よりも回族だ。イラン留学生は帰国後、古い伝統を持つ神秘主義のスーフィー教団(門宦)の指導者になる人が多い。

【参考記事】中国、ウイグル族にスパイウエアのインストールを強制

一方、アズハル大学で学んだり、サウジアラビアでメッカ巡礼をしたりした留学生は伝統的なスーフィズムを否定し、原理主義的なワッハーブ主義の信者となってしまう傾向がある。

中国はスーフィー教団の指導者とワッハーブ主義者との間の歴史的対立を利用してイスラム教徒を巧みにコントロールしている。イランとの友好関係を維持しながら、スンニ派大国に経済援助をばらまくことで、世界のイスラム問題は一層複雑化するだろう。

【お知らせ】ニューズウィーク日本版メルマガリニューアル!
 ご登録(無料)はこちらから=>>

プロフィール

楊海英

(Yang Hai-ying)静岡大学教授。モンゴル名オーノス・チョクト(日本名は大野旭)。南モンゴル(中国内モンゴル自治州)出身。編著に『フロンティアと国際社会の中国文化大革命』など <筆者の過去記事一覧はこちら

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

中独は共通基盤模索すべき、習主席がショルツ首相に表

ビジネス

中国GDP、第1四半期は前年比5.3%増で予想上回

ワールド

米下院、ウクライナ・イスラエル支援を別個に審議へ

ビジネス

中国新築住宅価格、3月は前年比-2.2% 15年8
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:老人極貧社会 韓国
特集:老人極貧社会 韓国
2024年4月23日号(4/16発売)

地下鉄宅配に古紙回収......繁栄から取り残され、韓国のシニア層は貧困にあえいでいる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    天才・大谷翔平の足を引っ張った、ダメダメ過ぎる「無能の専門家」の面々

  • 3

    攻撃と迎撃の区別もつかない?──イランの数百の無人機やミサイルとイスラエルの「アイアンドーム」が乱れ飛んだ中東の夜間映像

  • 4

    ハリー・ポッター原作者ローリング、「許すとは限ら…

  • 5

    キャサリン妃は最高のお手本...すでに「完璧なカーテ…

  • 6

    アインシュタインはオッペンハイマーを「愚か者」と…

  • 7

    金価格、今年2倍超に高騰か──スイスの著名ストラテジ…

  • 8

    イスラエル国民、初のイラン直接攻撃に動揺 戦火拡…

  • 9

    甲羅を背負ってるみたい...ロシア軍「カメ型」戦車が…

  • 10

    中国の「過剰生産」よりも「貯蓄志向」のほうが問題.…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体は

  • 3

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入、強烈な爆発で「木端微塵」に...ウクライナが映像公開

  • 4

    NewJeans、ILLIT、LE SSERAFIM...... K-POPガールズグ…

  • 5

    ドイツ空軍ユーロファイター、緊迫のバルト海でロシ…

  • 6

    犬に覚せい剤を打って捨てた飼い主に怒りが広がる...…

  • 7

    ロシアの隣りの強権国家までがロシア離れ、「ウクラ…

  • 8

    金価格、今年2倍超に高騰か──スイスの著名ストラテジ…

  • 9

    ドネツク州でロシアが過去最大の「戦車攻撃」を実施…

  • 10

    「もしカップメンだけで生活したら...」生物学者と料…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 7

    巨匠コンビによる「戦争観が古すぎる」ドラマ『マス…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    浴室で虫を発見、よく見てみると...男性が思わず悲鳴…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story