コラム

秘密裏だったイギリスのサイバー諜報活動が、オープンに強化される

2015年11月25日(水)16時30分

英国のオズボーン財務相は11月17日、英政府通信本部(GCHQ)で演説し、サイバーテロ対策を強化すると表明した。 Ben Birchall-REUTERS

 英国ではこれまで大きなサイバー攻撃事例が知られていなかった。米国では、小売りチェーンのターゲット、大手金融のJPモルガン・チェース、映画のソニー・ピクチャーズ・エンターテインメントなど、いくらでも事例を挙げることができるが、英国ではそうした事例は出ていなかった。

 英国に対してサイバー攻撃が全く行われていなかったわけではない。むしろ、攻撃者にとっては米国と並ぶ最優先ターゲットだといって良く、実際には無数の攻撃が行われているようである。

 米国は、嫌がる被害者たちを説得して被害を公表させ、その攻撃者たちを特定して名指しし、さらし者にすることで攻撃者たちを抑制しようとしてきた。

 それに対し英国は、被害を公表せず、官民および業界内で情報共有を徹底する一方で、マスコミには公表しないアプローチをとってきた。国の規模が小さく、首都ロンドンに政治経済機能が集中する英国では、そのほうが迅速かつ効果的に対処ができるのだろう。

2012年ロンドン・オリンピック

 これまで英国について取り上げられる際には、たいてい2012年のロンドン・オリンピックの事例が言及されてきた。ロンドン・オリンピックでは、数え方にもよるが、2億件のサイバー攻撃があったとされている。

 想定される攻撃には、ウェブ・サイトに大量のアクセスを集中させて機能を奪うDDoS(分散型サービス拒否)攻撃の他、電気、水道などのシャットダウン、計時・掲示システムの障害、あるいは不正入場チケットの頒布などがあった。

 さらには、スタジアムの観客がいっせいに撮影した写真を携帯電話でメール送信することで回線がパンクするのではとも懸念された。

 ここでも英国はオリンピック委員会と官民が連携し、攻撃を乗り切った。DDoS攻撃対策としてはサーバーを分散させ、不審な通信を監視し、回線パンク対策として会場周辺の回線増強を行った。システムを担ったBT(ブリティッシュ・テレコム)にも良い経験となり、英国政府とBTは2020年の東京オリンピックのためのアドバイスを日本にしてくれている。

プロフィール

土屋大洋

慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科教授。国際大学グローバル・コミュニティセンター主任研究員などを経て2011年より現職。主な著書に『サイバーテロ 日米vs.中国』(文春新書、2012年)、『サイバーセキュリティと国際政治』(千倉書房、2015年)、『暴露の世紀 国家を揺るがすサイバーテロリズム』(角川新書、2016年)などがある。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ガザ休戦交渉難航、ハマス代表団がカイロ離れる 7日

ワールド

米、イスラエルへ弾薬供与停止 戦闘開始後初=報道

ワールド

アングル:中国地方都市、財政ひっ迫で住宅購入補助金

ワールド

岸田首相、「グローバルサウスと連携」 外遊の成果強
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    外国人労働者がいないと経済が回らないのだが...... 今も厳しい差別、雇用許可制20年目の韓国

  • 2

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 3

    翼が生えた「天使」のような形に、トゲだらけの体表...奇妙な姿の超希少カスザメを発見、100年ぶり研究再開

  • 4

    こ、この顔は...コートニー・カーダシアンの息子、元…

  • 5

    ウクライナがモスクワの空港で「放火」工作を実行す…

  • 6

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 7

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 8

    単独取材:岸田首相、本誌に語ったGDP「4位転落」日…

  • 9

    マフィアに狙われたオランダ王女が「スペイン極秘留…

  • 10

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる4択クイズ

  • 3

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 4

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 5

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 6

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 7

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 8

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 9

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 10

    メーガン妃の「限定いちごジャム」を贈られた「問題…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

  • 10

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story