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中国が建設するインドネシア高速鉄道で脱線事故 事故車両にカバーかけ証拠隠滅?

2022年12月21日(水)12時40分
大塚智彦
カバーがかけられた事故車両

事故を起こした車両にはカバーがかけられ、証拠隠滅との声も…… KOMPASTV / YouTube

<日本との競争入札で中国が受注した高速鉄道。半年後の完工目指す工事に新たなトラブルが......>

インドネシア政府が鳴り物入りで建設中の高速鉄道の工事現場で12月18日、工事車両が脱線転覆。作業中の中国人労働者7人が死傷する事故が起きた。

首都ジャカルタと西ジャワ州州都バンドンの間143キロ間を45分で結ぶ高速鉄道は、中国が落札してインドネシア・中国のコンソーシアム(KCIC)による建設が進んでいる。今回の事故は西バンドン工区で起きたが運輸省は原因解明までの間全ての工事を中断するようにKCICに求めた。

地元マスコミの報道などによると、12月18日午後、線路敷設用の工事車両がすでに敷設された線路上を走行中に何らかの理由で未敷設区間に乗り出して脱線、転覆したとみられている。

この事故で工事車両に乗車して作業中だった2人が死亡、5人が負傷して近くの病院に搬送され手当を受けている。全員が中国人労働者だったという。

習近平がオンライン視察

この高速鉄道は2015年の入札時に安全性を前面に出した日本と低コスト、短期工事を打ち出した中国の競争となったが、インドネシア側が入札条件を突然変更するなど紆余曲折を経て中国が落札した経緯がある。

その際日本が提出した「実現可能性調査(フィージビリティスタディ)」が中国側に漏れ、中国側が若干の手直しをしてインドネシア側に提出したとの疑惑が指摘された。

インドネシアのジョコ・ウィドド大統領は安全性を強調した日本より「インドネシア側に国庫負担を求めない」「短期間での工事完成」「中国を強力に推す閣僚の存在」などから中国受注を決めた。

しかし実際に建設工事が始まると用地買収が難航したほか、騒音や洪水、地滑りなどのトラブルが噴出して2019年の完工時期は遅れに遅れ、現段階では2023年6月の完工予定となっている。

KCICは今回の脱線事故による完工時期の遅れはない、としている。

11月にバリ島で開催された主要20カ国・地域首脳会議(G20首脳会議)に出席した中国の習近平国家主席をインドネシア側はジョコ・ウィドド大統領と一緒に高速鉄道の完成した区間を試乗する計画を抱いていたものの中国側から断られ、バリ島からの両首脳によるオンライン視察が11月16日に行われたばかりだった。

膨らむ安全性への懸念

中国側は自ら受注したものの、高速鉄道の安全性には疑問を抱いているとされ、2023年6月の完工時に再びジョコ・ウィドド大統領は習近平国家主席を招待して、共に試乗して開業を祝うことを計画しているとされるが、今回の事故の影響が懸念されている。

事故原因は現在解明中だが、脱線転覆事故で死傷者まで出していることから、高速鉄道そのものへの安全性にインドネシア国民が不安を抱くことは間違いないだろう。

中国は当初「インドネシアの国庫負担を求めない」としていたが、工事の遅延やコロナ禍による工事一時中断などから建設費用が膨れ上がり、2021年11月にはついにインドネシアが約4.3兆ルピア(約357億円)の国庫投入に踏み切らざるを得なくなり、工期は遅れるわ環境問題が浮上するわ国庫を投入するわなど「踏んだり蹴ったり」の状況にあるといわれている。

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