最新記事

中台関係

中国はなぜ「台湾は中国の一部」と思い込むのか──単なる妄想、それとも戦略?

CHINA’S TAIWAN ITCH

2022年8月23日(火)12時29分
練乙錚(リアン・イーゼン、経済学者)
台湾

台湾はオランダ人に「フォルモサ(麗しの島)」と呼ばれた Y-STUDIO/ISTOCK

<現在、または歴史的な「実効支配」の有無に着目する国際司法裁判所(ICJ)。それであれば、17世紀に38年間支配したオランダのほうがまだ正当性がある。一度も実効支配したことがないのに「統一」の謎>

ペロシ米下院議長の訪台を受けて、中国は台湾に対し8月前半に激しい軍事的な威嚇を行った。中国の攻撃的な姿勢は予想できたが、このことは私たちが中台関係への理解を深める必要性を改めて促している。

中国側の主張によれば、台湾問題とは「統一」問題。台湾は中国に帰属するというわけだ。だが、むしろ問題は中国の自己認識にあるように思える。中国は2000年以上にわたり、全ての王朝・時代を通じて統一問題に苦しみ、領土的野心を実現できないことのほうが多かった。それはなぜか。

著名な歴史家の葛剣雄(コー・チエンション)に『統一と分裂──中国史の啓示』という著書があるが、東周時代の始まり(紀元前770年)から1998年までの2768年間で、中国全土が統一されていた時期はわずか952年、全期間の34%でしかない。

しかも葛によれば、中国が統一を達成したときや領域を拡大したときも、それはたいてい軍事的な力によるものだった。漢民族には団結するほどの一体感がないことが多く、異民族との間にはもちろんそんなものは存在しない。

これは世界史における、帝国の一般的特徴だ。ただしポルトガルやイギリスなど歴史上の他の帝国は、より民主的で自由な体制に移行したが、中国はそうならなかった。そのため表面的な統一を達成した後も、今のチベットや新疆ウイグル自治区で見られるような力による支配が続いている。「統一」は、常に中国が自らつくり出してきた自縄自縛の難題だ。

しかし、中国共産党の台湾に対する主張は、全くひどいものだ。実際には、共産党はいま台湾を支配していないだけでなく、過去に支配したことさえない。

国際司法裁判所(ICJ)は領土問題の裁定の最重要原則として、現在または歴史的な「実効支配」の有無にしばしば着目する。それに従うなら、中国の台湾の帰属に関する主張の正当性は、例えばオランダよりも弱い。

その理由は、歴史をたどれば明らかだ。もともと台湾には、歴史的に中国と接点を持たない先住民などが居住するだけだった。そこへ17世紀にオランダ人がやって来て、38年にわたり苛烈な植民地支配を行った。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米新規失業保険申請1.8万件増の24.1万件、予想

ビジネス

米財務長官、FRBに利下げ求める

ビジネス

アングル:日銀、柔軟な政策対応の局面 米関税の不確

ビジネス

米人員削減、4月は前月比62%減 新規採用は低迷=
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    ポンペイ遺跡で見つかった「浴場」には、テルマエ・…
  • 5
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 6
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 7
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 8
    クルミで「大腸がんリスク」が大幅に下がる可能性...…
  • 9
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 10
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 8
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 9
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 10
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 9
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 10
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中