最新記事

環境保護

観光収入より環境保護を選んだタイ マヤビーチ閉鎖に見る東南アジアの苦悩

2018年6月3日(日)13時30分
大塚智彦(PanAsiaNews)

タイのビーチはスピードボートなどに乗ってくる観光客で混みあう。写真はパタヤのラン島。

<美しい自然を売り物に、観光収入を得てきた東南アジア。だが、観光客が押し寄せたことで自然破壊が深刻化してきた──>

タイ政府は6月1日、南部クラビ沖のアンダマン海に浮かぶリゾート島ピピレ島のマヤビーチを9月までの4カ月間、閉鎖することに踏み切った。マヤビーチは米俳優レオナルド・ディカプリオが主演した映画「ザ・ビーチ」(2000年公開)で一躍有名になり、世界中から観光客が押し寄せるようになっていた。

このためビーチ周辺の生態、特に海底の珊瑚礁に深刻な影響がでるようになり、環境保護の観点からビーチへの立ち入りを6月1日から9月30日まで全面的に禁止する措置となった。

アンダマン海のピピ諸島は世界的なタイの観光地プーケットとクラビのほぼ中間海域にあり、貸し切りや乗り合いのスピードボートでピピ観光の拠点となるピピドン島に向かい、そこからさらに南の無人島ピピレを訪れるのが定番の観光コースとなっている。ピピレ島は狭い湾の入り口を入ると広い白砂のビーチが緑深い丘と林の前に広がる別天地のような場所として有名だ。

ここに1日2000人から4000人の観光客が約200隻のボートで入れ代わり立ち代わり訪れ、海岸は「芋の子を洗う」状態になっていた。

浜辺から海に入ってみると海底は岩とサンゴでとても歩きにくいことが分かる。このため湾に入り、観光客を上陸させるためにぎりぎり砂浜近くまで乗りつけるボートが海底のサンゴを傷つけたり、スクリューで巻き上げた海砂がサンゴに降りかかったりしてサンゴの白化などの環境破壊が進んでいた。

「ザ・ビーチ」で環境破壊も

以前は孤島のような知られざる島だったピピレ島を一躍世界有数の観光地にした「ザ・ビーチ」は、撮影に当たり砂浜の造成や海岸のヤシの木を引き抜いたり、新たに植えたりした。タイ当局は当初自然に手を加えることに反対したが、「撮影終了後原状回復を図る」との条件で撮影許可を出した。

しかし完全な回復は難しいところへ映画の影響で観光客が殺到する事態になり、年々環境破壊が深刻化していた。

地元クラビ県関係者や環境保護団体は国立公園法違反容疑で映画製作会社の米20世紀フォックスなどを相手取り損害賠償を求める裁判を起こしていた。2006年11月にタイの最高裁は原告のクラビ県などの主張を認める2審判決を支持し損害額の算定を指示する判決を下している。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

ノババックス、サノフィとコロナワクチンのライセンス

ビジネス

中国高級EVのジーカー、米上場初日は約35%急騰

ワールド

トランプ氏、ヘイリー氏を副大統領候補に検討との報道

ビジネス

米石油・ガス掘削リグ稼働数、3週連続減少=ベーカー
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:岸田のホンネ
特集:岸田のホンネ
2024年5月14日号(5/ 8発売)

金正恩会談、台湾有事、円安・インフレの出口......岸田首相がニューズウィーク単独取材で語った「次の日本」

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋戦争の敗北」を招いた日本社会の大きな弱点とは?

  • 4

    「終わりよければ全てよし」...日本の「締めくくりの…

  • 5

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 6

    横から見れば裸...英歌手のメットガラ衣装に「カーテ…

  • 7

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 8

    ウクライナの水上攻撃ドローン「マグラV5」がロシア…

  • 9

    ブラッドレー歩兵戦闘車、ロシアT80戦車を撃ち抜く「…

  • 10

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地ジャンプスーツ」が話題に

  • 3

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋戦争の敗北」を招いた日本社会の大きな弱点とは?

  • 4

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 5

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必…

  • 6

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 7

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 8

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 9

    外国人労働者がいないと経済が回らないのだが......…

  • 10

    日本の10代は「スマホだけ」しか使いこなせない

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 6

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 10

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中