最新記事

フィリピン

ドゥテルテ麻薬戦争で常用者を待つ悲劇

2016年11月10日(木)10時30分
アウロラ・アルメンドラル

 出頭者に取材したいと言うと、アバソラは渋い顔をした。麻薬使用を認めた人たちの多くは身を隠して暮らしているらしい。

 アバソラの案内でスラムの一角にある建物に向かった。そこには取り締まりが始まった直後に自首したルイシト・ボハが住んでいたという。1週間程前、覆面をした3人の男が夜中にバイクでやって来て、ボハをベッドから引きずり出し、2人の幼い子供の眼前で射殺した。「自首した時点で彼を逮捕して刑務所に入れていれば、悲劇は避けられたはずだ」と、アバソラは悔しげにつぶやいた。

 建物のそばに立っていた男に声を掛けたが、名前は明かしてくれなかった。ボハを殺した男たちがまたやって来て、今度は自分が殺されると思うと夜もおちおち眠れず、バイクの音がしただけでビクッとするという。

【参考記事】金正恩vs.ドゥテルテへ!? フィリピンに流入する北の違法薬物

 スラムの住人たちを守りたいが、できることはほとんどないと、アバソラは言う。麻薬使用者の居場所を警察に密告する連中がいて、警察の指示で自警団が動いているらしい。

 アブソラの紹介で取材に応じてくれる女性に会った。麻薬を使用していた彼女の夫は数週間前に家を出て行ったという。「自首したのが裏目に出た」と、彼女は嘆いた。自警団に狙われた夫は、妻子を巻き添えにしないよう逃亡したのだ。夫は妻の身を案じて潜伏先も教えてくれないし、連絡もほとんどない。それでも彼女の元には夫を追う男たちから脅迫メールが届く。

 ドゥテルテ大統領は最近、政府には今のところ麻薬常用者を更生させる資金はないとして、「当面は」殺すしかないと、平然と言い放った。

From GlobalPost.com特約

[2016年11月15日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

豪6月失業率は3年半ぶり高水準、8月利下げ観測高ま

ビジネス

アングル:米大手銀トップ、好決算でも慎重 顧客行動

ワールド

WTO、意思決定容易化で停滞打破へ 改革模索

ビジネス

オープンAI、グーグルをクラウドパートナーに追加 
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:AIの6原則
特集:AIの6原則
2025年7月22日号(7/15発売)

加速度的に普及する人工知能に見えた「限界」。仕事・学習で最適化する6つのルールとは?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が話題に
  • 2
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失った
  • 3
    日本より危険な中国の不動産バブル崩壊...目先の成長だけ追い求め「失われた数百年」到来か?
  • 4
    アメリカで「地熱発電革命」が起きている...来年夏に…
  • 5
    ネグレクトされ再び施設へ戻された14歳のチワワ、最…
  • 6
    「二度とやるな!」イタリア旅行中の米女性の「パス…
  • 7
    「巨大なヘラジカ」が車と衝突し死亡、側溝に「遺さ…
  • 8
    「飛行機内が臭い...」 原因はまさかの「座席の下」…
  • 9
    「異常な出生率...」先進国なのになぜ? イスラエル…
  • 10
    約3万人のオーディションで抜擢...ドラマ版『ハリー…
  • 1
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップを極めれば、筋トレは「ほぼ完成」する
  • 2
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が話題に
  • 3
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失った
  • 4
    「お腹が空いていたんだね...」 野良の子ネコの「首…
  • 5
    日本より危険な中国の不動産バブル崩壊...目先の成長…
  • 6
    どの学部の卒業生が「最も稼いでいる」のか? 学位別…
  • 7
    千葉県の元市長、「年収3倍」等に惹かれ、国政に打っ…
  • 8
    「二度とやるな!」イタリア旅行中の米女性の「パス…
  • 9
    アメリカで「地熱発電革命」が起きている...来年夏に…
  • 10
    完璧な「節約ディズニーランド」...3歳の娘の夢を「…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 3
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事故...「緊迫の救護シーン」を警官が記録
  • 4
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 5
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 6
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 7
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 8
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 9
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越し…
  • 10
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中