コラム

韓国とアメリカがスワップ取極を再延長、日韓スワップ取極も可能か

2020年12月24日(木)16時51分

韓国がスワップ取極に積極的な動きを見せている理由は、韓国の通貨がドルや円のような基軸通貨ではないからである。アメリカや日本のような先進国は外貨が足りなくなった場合、量的緩和を実施し、通貨を発行することで外貨不足の問題を解決することができる。しかしながら、自国の通貨が基軸通貨ではない韓国のような新興国は、外貨が足りなくなると他の国から外貨を借りなければならない。外貨が借りられないと通貨危機に直面することになる。1997年のアジア通貨危機がその良い例である。当時、韓国では、ウォンの急落により外貨で借りていた借金が膨らんだ。外貨準備高は39.4億ドルしかなく、海外からの資金は引きあげられ、外貨を借りることもできなかった。結局、韓国はIMFに緊急支援を要求することになった。

韓国は、現在の外貨準備高がまだ十分だと判断しておらず、日本とのスワップ取極にも積極的な立場を見せている。丁世均首相は2020年3月27日に開かれた記者懇談会で「(米国に続き)日本とのスワップ取極も行われることが正しいと考える」と発言するなど日本とのスワップ取極に意欲を示した。しかしながら日本からの反応は冷たく、日韓のスワップ取極の道は見えていない。

日韓スワップ取極は2001年7月に20億ドル規模で始まり、2008年の金融危機には300億ドルに、2011年には700億ドルまで徐々に拡大したが、2012年に韓国の李明博元大統領の竹島(韓国名:獨島)上陸をきっかけに日韓関係が悪化したため2015年2月に終了した。

元徴用工判決、輸出規制、GSOMIA破棄等により悪化し続けている日韓関係はいつ回復できるだろうか。新型コロナウイルスが発生する前には、日韓関係は悪くても、民間の交流は活発だった。しかしながら、新型コロナウイルスの影響で、今は空路や海路がほぼ途絶えてしまい、交流の機会は大きく減少した。

日韓関係改善の鍵はいうまでもなく「元徴用工問題」だ。「元徴用工問題」に対する日韓政府の対策により、今後の日韓関係は大きく左右されるだろう。従って、菅新政権と残り任期1年半の文政権が知恵を絞ってこの問題を解決してほしい。そうなると、スワップ取極を含めた日韓の経済協力に対する議論は大きく進むと考えられる。今後、菅首相と文大統領が日韓関係の改善に向けて大きな決断をすることを願うところである。

プロフィール

金 明中

1970年韓国仁川生まれ。慶應義塾大学大学院経済学研究科前期・後期博士課程修了(博士、商学)。独立行政法人労働政策研究・研修機構アシスタント・フェロー、日本経済研究センター研究員を経て、2008年からニッセイ基礎研究所。日本女子大学現代女性キャリア研究所特任研究員、亜細亜大学特任准教授を兼任。専門分野は労働経済学、社会保障論、日・韓社会政策比較分析。近著に『韓国における社会政策のあり方』(旬報社)がある

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

仏中銀、第4四半期は「わずかな成長」 政治的不透明

ビジネス

10月の世界EV販売は23%増の190万台、欧州・

ワールド

欧州委、安保強化へ情報専門部署設置検討 国際的緊張

ワールド

政府、非核三原則を政策方針として堅持=首相答弁巡り
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界最高の投手
特集:世界最高の投手
2025年11月18日号(11/11発売)

日本最高の投手がMLB最高の投手に──。全米が驚愕した山本由伸の投球と大谷・佐々木の活躍

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ギザのピラミッドにあると言われていた「失われた入口」がついに発見!? 中には一体何が?
  • 2
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評家たちのレビューは「一方に傾いている」
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    コロンビアに出現した「謎の球体」はUFOか? 地球外…
  • 6
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一…
  • 7
    「流石にそっくり」...マイケル・ジャクソンを「実の…
  • 8
    冬ごもりを忘れたクマが来る――「穴持たず」が引き起…
  • 9
    【銘柄】エヌビディアとの提携発表で株価が急騰...か…
  • 10
    【クイズ】韓国でGoogleマップが機能しない「意外な…
  • 1
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 2
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 3
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 4
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 5
    「座席に体が収まらない...」飛行機で嘆く「身長216c…
  • 6
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一…
  • 7
    「遺体は原型をとどめていなかった」 韓国に憧れた2…
  • 8
    筋肉を鍛えるのは「食事法」ではなく「規則」だった.…
  • 9
    「路上でセクハラ」...メキシコ・シェインバウム大統…
  • 10
    クマと遭遇したら何をすべきか――北海道80年の記録が…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 7
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 8
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 9
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
  • 10
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story