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日本の医療制度は「自由すぎる」、世界を変えたプライマリ・ケア改革とは

2022年09月09日(金)08時03分
井伊雅子+山脇岳志+土居丈朗 構成:井上ちひろ(東京大学大学院経済学研究科博士課程)

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山脇岳志/スマートニュース メディア研究所 所長

井伊 大学院生時代を過ごしたウィスコンシンと、世界銀行時代のワシントンD.C.は制度が全く異なりました。ウィスコンシンでは当時、HMO(Health Maintenance Organization)という会員制医療保険の制度が整備されていました。受診できる医療機関は限られていますが、受診時の自己負担は無料でした。

私は大学(州立大学)でティーチングアシスタントやリサーチアシスタントとして働いていたので、ウィスコンシン州の職員ということで、保険料も払わないで済みました。コネチカット州出身の同級生は、「ウィスコンシンにいる間に歯の治療を全て済ませておこう」と話していたぐらい恵まれた医療制度でした。一方で、ワシントンD.C.では、保険料も高いし自己負担も高い。

ですから、日米で医療制度が比較されがちですが、「アメリカの医療制度」というものはなく、州・地域によって異なるというのが私の結論です。

土居 お二人の話からうかがえるのは、医療は自由過ぎてもいけない。医療の質のコントロールをしながら、患者のアクセスをいかに適切にするかというところが重要になってくるということですね。

日本の医療制度への提言

土居 翻って、日本の医療制度をどのように設計するかについて、何かご提言はありますか。

井伊 日本の人口当たりの医師や看護師の数は、国際比較しても遜色ありません。しかし、OECDのデータによると、海外では全医師の2割から4割がジェネラル・プラクティショナー(GP)や家庭医と呼ばれる人々です。しかし、日本ではGP、家庭医はほぼ皆無に近く、医療のゲートキーパーを担う人材を育ててこなかった問題はやはり大きいと思います。

また、日本の病院はベッドを埋めないと経営が成り立たないという診療報酬制度があるため、外来だけで済むのにあえて入院させたり、長く入院させる傾向があります。

これは決して医療機関を責めているわけではありません。支払い制度を変えることで医療者側も経営しやすくなるということです。このことについては経済学の知見が生かせると考えており、今、土居先生と一緒に研究しているところです。

データの一元化とデジタル化

山脇 1つ井伊先生に伺いたいのですが、イギリスではかかりつけ医の最初のアポを取るまでに1~2週間かかることも多く、異常があってもすぐにかかりつけ医に診てもらえないという不満もあるようです。プライマリ・ケアの良い点は理解できますが、この点はいかがでしょうか?

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