アステイオン

未来

アイザック・アシモフと子供たちの「未来予想図」

2020年02月14日(金)
玉川 透(朝日新聞GLOBE編集部・編集長代理)

味わい深いイラストの数々は、20世紀への節目を祝う祭典の一環として、紙たばこのおまけ「シガレット・カード」のためにデザインされたようだが、つくっていた会社が廃業してしまい、日の目を見ることはなかった。ところが、80年近くたったある日、パリの骨董品店に埋もれていた作品が見いだされ、アシモフが『フューチャーデイズ』で紹介、世に知られることになった。現在、イラスト原画のシリーズは、フランス国立図書館(BnF)に所蔵されている。

数奇な運命を経た作品の中には、「電気床磨き機」のようにほぼ実現したものもあれば、これはちょっと無理かなと首をかしげてしまうものも少なくない。「学校にて」と題した作品を見ると、教室で生徒たちがヘッドフォンのような器具を頭に付け、回線でつながった機械に先生が分厚い本をじゃんじゃん投入している。どうやら、本の中身を子供たちの脳に直接インストールしているようだ。教育問題は今も昔も切実だったようだ。

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電気床磨き機 Un Frotteur électrique/En l'an 2000, BnF

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学校にて A l'École/En l'an 2000, BnF

現代SFの基礎を築いたと言われるアシモフは、こうした作品をときにはユーモラスに、そして皮肉たっぷりに紹介している。そして、前書きをこう結んでいる。「もちろん、1899年に想像されたことを笑い飛ばしたり、からかったりすることはたやすいことだろう。しかし、今、2085年の生活はどうなっているだろうか、と聞かれたら、いったいどうであろう。冷笑したり、ばかにしたりしないで、この滅多にない好機を利用して、一人の未来主義者の作品をみていこうではないか。そして、彼の間違った点を理解し、また、一方では、これほど愉快で、楽しい空想を描いたイラストレーターを大いに讃えようではないか」――。

そうなのだ。100年後の未来をあれこれ論じる以前に、今ある常識や悲観的な考えに凝り固まって、創造力の翼がぴくりとも動かない、そんな大人になっていないだろうか。子供の頃を思い出して、娘と一緒に「未来予想図」を描いてみようかな。アシモフの言葉にふと、そんな気持ちにさせられた。

玉川 透(たまかわ とおる)
朝日新聞GLOBE編集部・編集長代理


『アステイオン91』
 サントリー文化財団・アステイオン編集委員会 編
 CCCメディアハウス 発行

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