アステイオン

サントリー学芸賞

『サントリー学芸賞選評集』刊行記念企画vol.2 学術書と一般書のあいだ

2019年03月08日(金)
三辺直太(新潮社 新潮選書編集部)

SUNTORY FOUNDATION

この度刊行された『サントリー学芸賞選評集』を興味深く読みながら、改めて受賞作の幅広さに感心しています。そして、ある関係者の方が、「分厚い学術書が受賞すると『こんな専門書に受賞させるなんて』と批判され、薄い新書が受賞すると『こんな一般書に受賞させるなんて』と批判される」と苦笑交じりに漏らしていたことを思い出しました。

その話を聞いた時、口幅ったい言い草ですが、ちょっと「選書」の立場に似ているなと共感を覚えてしまいました。選書というジャンルには、註がびっしり付いた学術論文のような本もあれば、新書のように読みやすい入門書もあります。良く言えば自由度の高い、悪く言えばじつに中途半端なジャンルです。新潮選書の原稿を依頼する際も、研究者の方に「学術書のつもりで書けばいいのか、新書のつもりで書けばいいのか」と訊かれて困ることがあります。その度に、口ごもりながら「えーっと、学術書ではなく一般向けの本なのですが、新書よりはちょっと専門的な感じで......」と要領を得ない返事をするしかできません。そんな微妙な立ち位置が、サントリー学芸賞と少し似ているのではないかと思ったのです。

新潮選書は1967年に創刊されました。とはいえ、社内に独立した「新潮選書編集部」が設けられたのは2006年のこと。それまでの約40年間は、「出版部」に所属する編集者が、文芸やノンフィクションなど様々な分野を扱う中で、必要に応じて「選書」のパッケージを活用するという形で刊行を続けてきました。高坂正堯先生をはじめ、サントリー学芸賞とも縁の深い研究者による選書も刊行してきましたが、あくまでも文芸やノンフィクションの仕事の延長線上で生まれた企画であり、たとえば大学の紀要に目を通したり、学会や研究会に顔を出して著者を発掘する努力などは殆どしていませんでした。

私が新潮選書編集部に異動したのは2008年です。2年前に独立した編集部が、本格的に学芸分野に参入しようと試行錯誤を繰り返していた時期でした。入社以来、写真週刊誌の張り込み記者やコミック編集など、アカデミズムとは縁遠い仕事ばかりしてきた私には、正直、気の重い部署でした。編集長から「とりあえずサントリー学芸賞の受賞作を読んで、気に入った作品の著者に原稿を頼みに行きなさい」と言われた時も、「研究者が書いた本など、果たして自分に読めるだろうか」と不安に駆られたのを覚えています。

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