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日本

より広範な社会からの理解を―日本の公文書管理体制を考える

2018年08月10日(金)
鈴木 悠(東京大学先端科学技術研究センター協力研究員・2016、2017年度 サントリー文化財団鳥井フェロー)

両氏の報告には、日本において記録作成・保存・公開の状況を改善させるためには、これらの作業の重要性を社会全体が認識しなければならないというメッセージがこめられている。奈良岡氏が述べたように、公文書ねつ造の問題がニュースをにぎわせる昨今、どうしても世間の目は記録を作成し保存する側に向かいがちだが、記録を作成する側と閲覧する側に基本的な信頼関係がなければ、史料作成・公開に関する制度を確立させることは不可能である。また、牧原氏の言うように今後インタビューによる記録作成が重要になってくるのであれば、その作業を研究者だけで行うことは不可能であり、より広範な社会からの協力が欠かせない。

今回のフォーラムのような催しを繰り返し行うことによって、一般の人々の記録作成・保存・公開に対する関心を喚起する。日本におけるアーカイブズの状況を変えるためには、このような地道な努力が一番重要なのかもしれない。自分達の過去の事業について史料をしっかりと保存し、一定の期間が経過した後に情報公開をしない組織は社会的な信頼を得られないという考え方が常識的になれば、記録作成・保持者の意識も自ずと変わってくるのではないだろうか。

鈴木 悠(すずき ゆう)
東京大学先端科学技術研究センター協力研究員
2016、2017年度 サントリー文化財団鳥井フェロー

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