アイデアの創出から商業化へと至るイノベーションのプロセスにおいて、「文化」は重要な役割を果たす。

「文化の違いは、イノベーションにどのような影響を及ぼすのか」。この問いに答えるために、私たちは、国単位のイノベーション力と文化的特性を反映したデータを集めることにした。国民文化・組織文化研究の第一人者、ヘールト・ホフステードは、2010年の共著書『Cultures and Organizations』(邦訳『多文化世界――違いを学び未来への道を探る』有斐閣)において、次の五つのディメンションで文化を分析している。

1.権力の格差指標(PDI):権力の弱い者たちが、社会の不平等をどれだけ受け入れているか。

2.個人主義か集団主義か(IDV):どれくらい個人が集団を意識しているか。

3.性別役割意識(MAS):男女による違いをどれだけ意識しているか。

4.不確実性の回避指標(UAI):不確実、あるいは未知の状況をどの程度脅威に感じるか。

5.長期志向(LTO):将来を見越した長期的視野をもっているかどうか。「放縦か抑制か(IVR)」すなわち個々人がどれくらい自らの欲望や衝動をコントロールしようとしているかも、このディメンションに含まれる。

 2009年と2010年にINSEAD(フランスとシンガポールに拠点を置くビジネススクール)とインド産業連盟が作成した「グローバルイノベーション指標(GII)」報告では、132カ国のイノベーション力のスコアと順位が発表されている。これに基づき、各国の文化的特性とイノベーション力の関係の回帰モデルを調べてみた。ちなみにPDIとIDVにはきわめて強い逆相関関係があるため、IDVは回帰式から除外した。

 回帰式は次のようになる。

・国のイノベーション力(GII)=3.921+(-0.018×PDI)+(0.016×LTO)+(-0.007×UAI)+(0.009×IVR)

 この式は、INSEADとインド産業連盟の調査から見出された以下の事実を根拠としている。

・MAS(性別役割意識)は、イノベーションに影響を及ぼさない。

・PDI(権力の格差指標)が高いとイノベーションに好ましくない。

・LTO(長期志向)が高いとイノベーションに好ましい。

・不確実性を回避する傾向が強い文化ほどイノベーション力は低い。

・欲望と衝動は、より大きなイノベーションに結びつく場合がある。

レノボやシノペックなど中国企業30社を調査

 こうした国単位の文化的特性とイノベーションの関係は、個別の企業にも当てはまるのだろうか。それを調べるために中国企業30社を調査した。調査対象には、シノペック(中国石油化工集団公司)やCIIC(中国国際技術智力合作公司)などの国有企業と、中国民生銀行やレノボなどの非国有企業が含まれる。