とはいえ、本書『Caste』の重要な部分はそこではない。カースト制度の最上層にいる者は、制度を守るためなら何でもやるというところだ。ヨーロッパの貴族や、アパルトヘイト時代の南アフリカの白人がそうだったように、現在のアメリカの白人はカースト制度が壊れるのを恐れている。その恐れが、現在のアメリカの社会不安定につながっているのだ。

アメリカにおける(ヒスパニック系を除く)白人の人口は、第二次世界大戦直後の1950年代には9割近くを占めていたが、2019年には6割まで減っており、2044年ごろには過半数を切ると考えられている。「白人である」というだけで、これまで許されてきたことが許されないかもしれない世界がやってくる。それは、多くの白人にとって、不安で、恐ろしいことなのだ。

カーストの最上層の特権を謳歌してきた白人には、民主党が主張するポリティカル・コレクトネスは彼らの特権を奪うためのスローガンに聞こえる。この本を読んでいるうちに納得できたのは、近年の大統領選挙で白人票の過半数を獲得した民主党候補がいないことだ。最近で最も多く白人票を獲得したのは1992年のビル・クリントンで、49%だった。2000年のアル・ゴアは43%、2004年のジョン・F・ケリーは41%、バラク・オバマは2008年に43%獲得したものの、2012年には39%と激減した。

黒人の大統領が生まれたことで「アメリカには人種差別はもうない」と主張する者がいたが、ウィルカーソンも書いているように、多くの白人にとっては「自分の生まれつきの身分を忘れた uppity (思い上がった、身の程知らずの)黒人」に対する嫌悪感をいだく、許せない出来事だった。「黒人が思い上がったことをしたら、自分の身分を思いださせるようにお仕置きしなければならない」という奴隷時代からの考え方を引き継いでいる白人たちは、これまで以上に黒人に対して頑なな態度を持つようになった。オバマ大統領が誕生したために、そのバックラッシュとして黒人に対する暴力事件がかえって増えていった。

2016年の大統領選で堂々と白人の優越感を鼓舞したトランプが白人票の58%を獲得し、クリントンが37%しか得られなかった最大の理由は、アメリカに存在するカースト制度なのだ。

トランプがどんなにスキャンダルを起こしても支持者が見捨てないのは、カースト制度の最上層の地位を失いたくない白人にとって、トランプが「最後の砦」だからだ。彼ほど厚顔無恥に白人の地位を守ってくれる大統領はこれまでいなかったし、これから先にもいないだろう。それがわかっているから、何があっても彼らはトランプを選び続けるのである。

白人男性である筆者の夫も同時に読んでいたのだが、彼もウィルカーソンの視点には納得していた。

非常に素晴らしい内容だからこそ、2020年の大統領選とその後のアメリカの社会状況に大きな不安を覚えさせる本でもある。